企業ミッションとは?MBAで学ぶ経営戦略の核心とその意義

2025年04月30日

企業のミッション

1-1.ミッションとは何か?

 企業のミッションについて、ジェイ.B.バーニー氏は著書「企業戦略論(上)」の中で「「ミッション(mission)」とは、その企業の根本的な目的と長期目標のことである。」(ダイヤモンド社)と定義しています。

 一般的にミッションと言えば、会社の建物の入口付近に額に入れて飾ってある、誰も読んでいない経営理念だと思われているようですが、実はこれはとても大切なものになります。ミッションは価値観を共有する役割を果たします。創業者が目的を持って企業し、その目的を追求していても、社員や従業員が増える過程で、同じ目的を共有する事は難しくなっていきます。たとえば創業者・経営陣が「美味しいハンバーガーを一人でも多くの人に届けたい。」というミッションを持っていたとします。このミッションを掲げていない場合、社員や従業員が増える過程で「高価格で高品質のハンバーガーを作ろう。」とか「特定のセグメントだけに喜ばれるハンバーガーを作ろう。」と主張する社員や従業員が現れる可能性も充分にあります。また製品開発部は開発の過程で「誰に、どれぐらいの価格で売れるハンバーガーを開発すべきなのか?」という、製品開発の前提条件に迷いが生じてしまうかもしれません。しかしミッションで企業の目的を明確にしていれば、全社員が従うべき、そして迷った時の判断や行動の指針となります。これがミッションです。

 ミッションがあると企業の判断基準と行動指針が明確になるので営判断がブレる事はありません。ミッションは企業の行動の指針になるのです。これは事業展開を進めていく上で極めて重要になります。何故なら企業の経営者は常に経営判断に迷うものだからです。例えば企業の経営者が事業拡大を考えている時に、非関連事業の魅力的な機会を発見したとします。この場合にその事業に進出するかどうかの基準を与えてくれるのがミッションになります。ミッションがないと経営者が交代すれば判断基準が著しく変わってしまうので、ミッションは非常に重要なものになります。

1-2.ミッション・ステートメント

 企業のミッションは「ミッション・ステートメント」という形で文章化されるケースがあります。企業がミッション・ステートメントを文章化する理由は、企業が従業員やその他の関係者とミッションを共有しやすくする為です。従業員は企業の経営者の言動を常に見ているので伝えなくても方針は必ず伝わるものですが、やはり文章化されたミッション・ステートメントがあれば周囲の人たちはそれをより理解しやすくなります。そうなると基準が明確なので従業員も行動しやすくなります。

 またこれは企業にもよりますが、ミッション・ステートメントを社内に貼っておくケースや、朝礼などで全員で音読するケースもあります。そうする理由はミッションをより共有しやすくする為です。更に企業によってはミッション・ステートメントに目的やその達成方法等の内容を細かく書いているケースもあります。具体的には「核となる価値観(core value)」や具体的な行動予定、目標としている売上高や利益の数字を書いているものなどがあります。これは全社員に目標や行動予定までを共有し、目的に向かう過程でゴールや計画・価値観を共有しやすくするために行われるものになります。

1-3.ミッション・ステートメメントの例

 企業のミッション・ステートメントとして三つの例を挙げます。(各社のHPより:2025年4月現在)

1.トヨタ自動車株式会社

 一社目はトヨタ自動車株式会社のミッションです。トヨタ社のミッション・ステートメントには、まず「わたしたちは、幸せを量産する。」という核となる価値観が書かれています。その下に「だから、ひとの幸せについてよく考える。だから、良いものをより安くつくる。だから、1秒1円にこだわる。だから、くふうと努力を惜しまない。だから、過去と常識にとらわれない。だから、この仕事は限りなくひろがっていく。」という価値観と行動指針が書かれています。

2.ソニー株式会社

 二社目はソニー株式会社のミッションです。ソニーのミッションは「テクノロジーの力で未来のエンターテインメントをクリエイターと共創する。」という核となる価値観が書かれています。

3.スターバックスコーヒージャパン株式会社

 三社目はスターバックスコーヒージャパン株式会社のミッションです。スターバックスジャパンのミッションは「この一杯から広がる心かよわせる瞬間それぞれのコミュニティとともに―人と人とのつながりが生み出す無限の可能性を信じ、育みます。」というものになります。

MBAとミッション

2-1.MBAとミッションの関係

 MBAではミッションは「企業の経営判断の軸」として使用されます。

 そのため小論文や研究計画書ではミッションと経営判断の軸として検討する必要があります。例えば新規事業について検討する時に、収支シミュレーションでどれだけ魅力的なプロジェクトに見えても、その企業のミッションに合うかどうかも考慮した上で自分の考えをまとめる必要があります。また企業が買収案件を検討する時は、その買収先が自社のミッションと一致するかどうかについても検討する必要があります。このようにMBAの受験時も、更には入学後も経営を学ぶ上でミッションは不可欠なコンセプトになります。

 またMBAプログラムに出願する時はビジネススクールのミッションとあなたのミッション(パーソナルミッション)を合わせる必要があります。MBAプログラムを受験する時は必ず志望理由を書き面接でその内容を答える必要があります。その際にあなたが受験するビジネススクールのミッションと自分のミッション(パーソナルミッション)を合わせる必要があります。例えばそのビジネススクールが「実業で活躍する実務家を養成したい。」というミッションを掲げているのに、あなたの目標が経営学を学んで研究者になる事であれば、そのビジネススクールを受験する事は間違っていると言えます。またそのビジネススクールの特定の専攻(例.サービス・ホスピタリティ専攻)が「サービス業界で活躍する人材を育てたい。」というミッションを掲げているのに、MBAプログラムの修了後は現在勤務している製造メーカーで出世すると考えているのであれば、同じく専攻の選択が間違っていると言えます。このようにパーソナル・ミッションをビジネススクールのミッションに合わせていく事も重要になります。

2-2.パーソナル・ミッション

 上述した通り、あなた個人のミッションを「パーソナル・ミッション」と言います。そしてパーソナル・ミッションを定めておく事もMBA受験には重要になります。何故ならMBAの受験者の多くが職歴を有している社会人であり、社会人であれば自分がどのような仕事を通して世の中をどうしていきたいか、という事がある程度は理解できている筈だからです。例えばあなたが企業法務の専門家であり、企業法務を通して世の中の企業を良くしていきたいと考えているのであれば、それがパーソナル・ミッションになります。またあなたが理系出身の技術者であり、技術開発を通して世の中を良くしていきたいと考えているのであれば、それがあなたのパーソナル・ミッションになります。そしてMBAプログラムではあなたのパーソナル・ミッションとビジネススクールのミッションを合わせていく必要があります。これはあなたがMBAの修了後に仕事で成功する為にも、MBAプログラムへの合格を勝ち取る為にも重要になります。そのためあなた個人のミッションを企業のミッションのようにしっかりと定めるようにして下さい。

ミッション:まとめ

 このようにミッションとは企業の社員・従業員に自社の価値基準や行動指針を文章化したものになります。企業が拡大する過程では、ミッションを活用して社員・従業員に判断・行動指針を明確にする事が重要になってきます。そのため企業のミッションについてしっかり理解しておきましょう。またMBAプログラムを受験するあなたはパーソナル・ミッションについてもしっかりと定めておくようにして下さい。