2025年05月05日
目次
競争優位・競争均衡・競争劣位
企業が競争戦略を実行すると次のいずれかの状態になります。その三つの詳細とは次の通りです。
1-1.競争優位(Competitive Advantage)
まず企業が競争戦略を実行して成功した場合は「競争優位」を実現した状態になります。
競争優位とは他の競合よりも優れた価値を顧客に提供できる状態を指します。企業が競争優位を実現するとより高い利益率やシェアを獲得できるようになります。例えば企業の技術力が高く競合他社が模倣できない水準に達している場合、企業は同じ資源を使ってより高水準の製品を作ることができるようになります。そうなれば顧客は優先してその製品を購入するようになるので、結果として高い利益率を実現する事ができるようになります。また企業の原価構造が他社より優れており、同水準の製品をより低コストで製造できる場合も同じく高い利益率を実現する事ができるようになります。そうなれば高い利益率を実現する事や、場合によっては価格を引き下げてシェアを拡大させる事も容易になります。このように企業が競争優位を実現するとより高い利益率やシェアを獲得できるようになります。
競争優位はマイケル・E・ポーター氏の三つの競争戦略で実現する事が可能です。その三つとは「差別化戦略」「コストリーダーシップ戦略」「集中戦略」の三つになります。詳しくは別記事「ポーターの競争戦略とは?MBAで必須の3つの基本戦略を徹底解説」をご覧下さい。差別化戦略で模倣困難性の高い製品が製造できた場合、コストリーダーシップ戦略で低コストを実現できた場合、集中戦略で特定のセグメントに対する優位性を築く事ができた場合はそれぞれ競争優位を実現できていると言えます。このような競争優位の状態を目指すのが競争戦略の目標であると言えます。企業の目標は競争優位の実現と言っても過言ではありません。当然ですが企業は競争戦略を策定し競争優位の実現を目指します。企業は競争優位を実現することで競合他社より有利な立場を獲得する事ができるようになります。
1-2.競争均衡(Competitive Parity)
次に企業が競争戦略を実行して経済価値は生み出せたが競合他社と大きな差がない場合は「競争均衡」と言います。
競争均衡は複数の企業がほぼ同じ競争力を持ち、どこも明確な優位性を持っていない状態を指します。例えば企業が特定の製品を製造し販売したとしても、競合他社も同じような価格で似たような製品を販売しており、利益率やシェアに大きな差がない場合は「競争均衡」の状態になっていると言えます。実際に複数の企業が完全に同じシェアを共有している状態になる事はあり得ませんが、概ね同じようなシェアであり、シェアの差によるアドバンテージが付きにくい状態を競争均衡と言います。この状態は企業として競争戦略は実現できてはいるものの、圧倒的な成功を収めたとは言えない状態です。競争均衡の状態では利益が出ている場合とそうでない場合に分けることができます。
競争均衡を脱するには幾つかの方法があります。例えば差別化戦略やコスト・リーダーシップ戦略を実行したり、ニッチ市場への集中などの集中戦略があります。これはマイケル・E・ポーター氏の競争戦略です。また技術革新やビジネスモデル転換によって競争方法を変える方法などもあります。更には顧客との関係を深めて顧客ロイヤルティを高め、価格以外の軸で選ばれるようにする戦略もあります。これら以外にも方法はありますが、基本的には競争均衡の状態に陥ったらまずは競争戦略で競争優位を実現するべきだと言えます。そしてそれが難しいとなればその他の戦略を採用すべきであると言えます。いずれにしても競争均衡になるのは決して珍しい事ではないので、そうなった場合は対応策もしっかり検討すべきであると言えます。
1-3.競争劣位(Competitive Disadvantage)
最後に企業が競争戦略を実行して失敗した場合を「競争劣位」と言います。
競争劣位は他社と比べて相対的に不利な立場にある状態です。具体的にはコストが高い、製品価値が劣っている、顧客に選ばれないといった状況です。このケースではそもそも利益を出せていないので、企業の戦略が失敗した事を意味しています。企業としてはすぐに対策を検討し、戦略を変更する事が必要となります。何故ならこのままの状態を放置しておくと赤字の状態が続いてしまうからです。またこれは資金面だけではなく、シェアの低下、利益率の更なる悪化、人材(特に優秀な人材)の流出、ブランド力の低下など企業にとって悲惨な状態が継続する事を意味しています。一般的に企業が赤字で成長の見込みがないとなれば、シェアが落ち、シェアが落ち始めると利益率が低下し、利益率が落ちると人材が流出したり取引先が離れていったりしますよね。このように競争劣位となれば一刻も早く方向転換するか撤退も含めた戦略の再構築が必要になります。
競争劣位の原因は、競争戦略の失敗(差別化・コストリーダーシップ・集中)や技術革新の遅れ・多角化による経営資源の分散などが挙げられます。マイケル・E・ポーター氏の競争戦略は競争優位を獲得するのに優れたコンセプトであると言えますが、これらを実行すれば必ず成功するという訳ではありません。例えば差別化戦略を採用して製品差別化を行っても、それが顧客に受け入れられるとは限りません。何故なら差別化するにしても顧客が求める内容でないと価格に反映する事ができないからです。またコストリーダーシップを実現しようとしても、規模の経済や範囲の経済を実現するのは、特定の条件下でないと難しいと言えます。更には集中戦略を実行しても、顧客セグメントの分析や集中の程度を間違うと、ビジネスは失敗に終わってしまいますよね。このように競争戦略は失敗に終わる可能性も充分にある戦略だと言えます。そして完全に失敗してしまった場合はこのように競争劣位の状態になります。また技術革新が遅れた場合や、経営資源を分散し過ぎると失敗する事もあります。競争劣位となる原因は幾つもありますが、いずれにしても競争劣位になるとすぐにリカバリーが必要であると言えます。
競争劣位を脱する方法もあります。例えば差別化の再構築やコスト構造の見直し、ターゲットの変更などが挙げられます。そしてこれらが不可能な場合は撤退という選択肢もあります。これは競争均衡の場合でも同じですが、競争劣位の場合は更にその選択肢が効果的となる可能性が高くなります。何故なら既に大きな赤字を受けている状態なので、立て直すまでに時間が掛かるからです。これが収支がトントンの場合であれば問題ありませんが、大きな赤字が継続している場合は立て直しまでの間に大きな損失を被ってしまいます。一般的に競争劣位の場合は大きな赤字になっているので、立て直しまでにこれが企業の致命傷になる可能性が極めて高くなります。そのため撤退と言う選択肢も効果的であると言えます。競争劣位となった場合はしっかりと立て直しと撤退のシナリオを検討して戦略を実行するようにしましょう。
競争優位・競争均衡・競争劣位:まとめ
上記の通り競争戦略の結果は三つに分かれますが企業が目指すのは競争優位の実現になります。その方法についてはマイケル・E・ポーター氏の競争戦略が筆頭に挙げられますが、まず企業の競争戦略の目的は競合他社と異なる行動を取り、競争優位を実現し競合他社以上の利益を生みだす事であると認識して下さい。MBA受験ではこれらの概念をしっかりと理解した上で競争戦略を考えられるようになって下さい。