2025年05月15日
マルチナショナル戦略
国際戦略には大きく分けて以下の三つの種類があります。
1-1.マルチナショナル戦略
「マルチナショナル戦略」は複数国で事業を行う企業がそれぞれの事業部に自由裁量を与える戦略になります。
マルチナショナル戦略を採用する企業は現地の需要に合わせて柔軟な戦略を策定する事が可能になります。例えばマクドナルド社は日本国内で「てりやきマックバーガー」を販売していますが、これは日本支社(日本マクドナルド)に自由裁量があるからこそ取れる戦略になります。このようにマルチナショナルな企業は、本社と事業部の実務上のつながりは薄く、個々の事業部が地域の需要に合わせた戦略を採用するのが特徴になります。
マルチナショナル戦略が注目されるのは各国の市場環境が大きく異なる場合です。消費者の嗜好や購買力、宗教・文化的背景、更に法規制や流通システムなどは国によって大きく異なります。そのため企業が一律的な製品やサービスを世界中に展開しても必ず成功するとは限りません。こうした状況で現地の需要に合わせて迅速に意思決定を行えるマルチナショナル戦略は企業にとって大きな強みになります。特に食品・飲料・日用品・アパレルなど、地域ごとに消費者ニーズが大きく異なる業界ではマルチナショナル戦略が効果的に機能します。
またこの戦略は現地スタッフのモチベーションを高める効果もあります。本社からの一方的な指示ではなく、現地の法人が自主的に市場調査を行って商品開発やマーケティング施策を決定できるので地域に根ざした経営が可能になります。結果としてその国の消費者から自分たちに合ったブランドとして受け入れられやすく、長期的な顧客ロイヤルティを築くことができるようになります。「てりやきマックバーガー」は正にこの例に該当します。
しかしマルチナショナル戦略にはデメリット存在します。各国の事業部が独自に活動するので、企業全体としての統一感が弱まり、ブランドイメージを損なうリスクがあります。更に研究開発や生産に重複が生じる事もあり、コストが高くなるという事態も生じる事になります。例えば上記の例の通りマクドナルドが現地に合わせたメニューを展開する場合、原材料の調達先や商品開発の方法が国ごとに異なるので効率性が低下します。つまり現地の需要を優先するあまり、スケールメリットを失う可能性が生じる事になります。
MBA受験の対策としてはマルチナショナル戦略を現地の需要を優先する戦略であると認識する必要があります。その上で後述するグローバル戦略やトランスナショナル戦略とも比較して、どのような状況でマルチナショナル戦略が適しているかを説明できるようになると小論文試験や研究計画書では高得点につながります。マルチナショナル戦略は地域の多様性が大きい場合には有効ではあるが、効率性は低いという二点を押さえておくべきだと言えます。
1-2.グローバル戦略
「グローバル戦略」は全世界レベルで最適化を目指す戦略です。
グローバル戦略はマルチナショナル戦略とは真逆の戦略になります。グローバル戦略を採用する事で現地の個々の需要に合わせる事は難しくなりますが、統一化によってコスト優位や効率化を実現する事が可能になります。例えば金利が低い国で資金を調達し、コストが安い国で原材料を調達して製品を製造すれば、必然的にコスト優位を実現する事が可能です。もちろん輸送費が発生したり、関税のような政治リスクを抱えたり、個々の顧客の需要に合わせにくいというデメリットもあります。
グローバル戦略の例としてはアップル社が挙げられます。アップル社は世界共通の製品デザイン・機能を提供し、販売戦略も概ね統一しています。これにより製品開発や広告宣伝を統一する事ができ、世界規模での規模の経済を実現することが可能です。同時に一貫したブランドイメージを保つ事ができる点も大きな利点であると言えます。たとえばiPhoneは、アメリカでも日本でもインドでもほぼ同じ仕様で提供されるため、世界共通のブランドとして認識されています。
グローバル戦略は技術力やブランド力が競争優位につながる業界に適しています。例えば航空機メーカーのボーイングや半導体のインテルなどが該当しますが、これらの企業は世界市場を統一的に認識することで競争優位を実現しています。この戦略ではコスト削減と効率化を実現できるので、研究開発や生産拠点に対する投資も集約でき、長期的な競争優位を築きやすいと言えます。
しかしグローバル戦略にはデメリットもあります。それはマルチナショナル戦略の利点が実現できない事です。グローバル戦略では地域ごとの消費者ニーズや文化的背景に対応する事ができません。例えば食品業界で世界共通の商品だけで戦えば各国・各地域の消費者に受け入れられない可能性があります。また政治リスクや規制の違いにも対応するのが難しく、特定の国で発生した問題が全世界の事業に影響するリスクも高いと言えます。事実として新型コロナウイルスの流行時にグローバルなサプライチェーンが一斉に混乱したことはその証左とも言えます。
MBA受験ではグローバル戦略を効率化を実現する戦略と認識しマルチナショナル戦略の違いを意識する事が重要になります。マルチナショナル戦略が現地に合わせる戦略であるのに対し、グローバル戦略は世界的に製品を統一し効率化を目指す戦略であると認識する必要があります。更に後述するトランスナショナル戦略との比較により効率性と適応性の両立を目指す戦略も知っておきましょう。
1-3.トランスナショナル戦略
「トランスナショナル戦略」はマルチナショナル戦略とグローバル戦略の間に位置する戦略です。
国際戦略で個々の需要に合わせる事と効率化を目指す事はトレードオフの関係にあると考えられていますが、トランスナショナル戦略はグローバルに展開しながら同時にローカライズの実現を目指す戦略になります。これが実現できれば最も良い戦略だと言えますが、実務では両者のバランスを取るのが難しく本社と拠点間での調整が必要役が必要になる戦略でもあります。ただいずれかに偏っていないという点で特徴がある戦略であると言えます。
トランスナショナル戦略の代表例としてはコカ・コーラ社が挙げられます。コカ・コーラ社は世界的に統一されたブランドイメージを保ちながら、日本市場では「いろはす」「綾鷹」など日本独自の商品を開発しています。このように統一した商品・ブランドを展開しながら同時に現地の需要に合わせて独自の商品開発を行っている企業もあります。この戦略は企業全体としての効率性を維持しながら現地の需要に適応する点が特徴になります。
トランスナショナル戦略のメリットは効率性と適応性を両立できる点になります。グローバルに研究開発や資源の調達を行うことでコスト削減を図り、各地域の需要に合わせた商品やサービスを提供することができるので、効率性と適応性の両方を実現する事ができます。また共通ブランドを保ちながら現地の顧客に向けた商品を展開できる点は、顧客ロイヤルティを高める効果もあります。
しかしこの戦略を実現するには高い組織能力が必要になります。本社と現地法人の間で情報や意思決定プロセスを共有しなければならず、その調整のコストが発生します。更に本社が効率性を優先すれば現地適応性が低くなり、逆に現地独自性を優先しすぎれば効率性が低下するというリスクがあります。このバランスが経営者にとって重要な課題になります。
MBA受験の対策としてはトランスナショナル戦略をグローバル戦略とマルチナショナル戦略の中間にある戦略と理解しておくようにしましょう。ただ重要なのは単なる中間戦略ではなく効率性と適応性を同時に追求する戦略であるという点になります。またその程度の調整も可能な戦略であるという点も覚えておくようにして下さい。
マルチナショナル戦略:まとめ
企業が国際展開する場合には国際戦略を検討する事になりますが、上記の通り国際戦略には幾つかの種類があり上記のいずれに属するかで効果は全く異なるものになります。MBA受験に向けてこれらの違いをしっかり理解して覚えておくようにしましょう。