エージェンシー問題の本質:経営者と株主の利益相反をMBA視点で解説

2025年06月23日

エージェンシー問題

1-1.エージェンシー問題とは?

 依頼人が代理人に意思決定権を委任した場合、両者の間には「エージェンシー関係」が存在する事になります。

 エージェンシー関係は依頼人と代理人との関係を指します。例えばA社のオーナーがB氏に経営を委任した場合、A社のオーナーとB氏の間には「エージェンシー関係がある」と言います。エージェンシー関係はどこにでもある普通の関係です。オーナーや経営者が権限を委任することなどビジネスでは日常茶飯事に行われています。何故ならオーナーや経営者が自分で全ての仕事を行うのは不可能なので、自分にしかできない仕事に集中する為に、代わりに別の人に権限を移譲するのが普通だからです。一人で全ての仕事をこなしている人はいませんよね。つまりエージェンシー関係は世界中に存在する普通の関係なのです。

 しかしエージェンシー関係には本質的な問題が内在しています。その問題は依頼人と代理人の利害が一致しないという問題です。例えばAさんがBさんに仕事を依頼したとします。Aさんはできる限り報酬を安くしたいでしょうし、Bさんはできる限り多めの報酬を受け取りたいでしょう。またAさんはできる限り時間を掛けて仕事をして欲しいと思うでしょうし、Bさんはできる限り簡単にその仕事を終えようとするでしょう。つまり依頼人と代理人の利害関係は一致しない事が多く、これにより依頼人と代理人の間に問題が生じる事になります。このように依頼人と代理人の目的が異なる場合に生じる問題を「エージェンシー問題」と言います。エージェンシー問題は依頼人と代理人の間に普通に生じる問題です。そのためこの問題をしっかり解決する必要があります。特にそれがビジネスで発生する問題であればしっかりと解決する必要があります。何故なら大きな金額が動くので大勢の人に影響を及ぼすからです。

 ビジネスで発生する最も大きなエージェンシー問題は株主と経営者の間に起こる問題です。何故なら本質的に株主と経営者は利害が対立しているので、この問題を放置すると企業価値の最大化を実現する事ができないからです。そのためビジネスでは株主と経営者(特に上場企業の経営者)の間に生じるエージェンシー問題を解決する事が重要な課題となります。ビジネスにおけるエージェンシー問題といえばまず株主と経営者の関係を指すのが一般的です。

1-2.エージェンシー問題が発生する理由

 エージェンシー問題が発生する理由は大きく分けて以下の三点になります。

1.情報の非対称性

 一点目は「情報の非対称性」になります。株主から経営を委託された経営者は企業の内部情報を知ることができますが、株主は現場で働く訳ではないので細かい内容を把握することはできません。そのため経営者が意図的に都合の悪い事実を隠蔽したり、自分に都合の良い報告を行ったとしても、株主がそれを知る事は難しいと言えます。そのため経営者が情報の非対称性を悪用した場合、株主は正しい判断を下せなくなります。例えば経営者が「これ以上の経費削減は不可能だ。」と述べた場合、仮に経費削減が可能であっても、株主はそれを知ることができません。このように株主と経営者の情報の非対称性によりエージェンシー問題が発生します。

2.経営者特典

 二点目は「経営者特典」になります。株主から経営を委託された企業経営者にとり、企業の利益を追求する事は必ずしも自分の利害を最大化する事とイコールではありません。何故なら経営の利害と株主の利害が完全には一致していないからです。株主は利益を最大化する為に経営者に経営を委託します。しかし委託された経営者は、例えばお金を生まない高価なオフィスや豪華な施設、多くの接待交際費を求める傾向にあります。自分の収入が変化する訳ではないので当然だと言えます。そのため両者の利害は一致しておらず、結果としてエージェンシー問題が発生する事になります。

3.経営者のリスク回避

 三点目は「経営者のリスク回避」になります。株主が積極的な経営を求めていても、経営者が無難に任期を終えたいと考えれば、積極的な投資が行われなくなります。何故ならリスクを取って頑張れば大きなリターンを見込める状況でも、企業の大きなリターンが同じく経営者個人に大きなリターンをもたさらない場合、経営者にとってリスクを取るのは面倒以外の何物でもないからです。よって経営者はリスクの高い勝負を回避する傾向が強くなります。しかしこれは大きなリターンを求めて投資した株主から見ると、株主が期待している行動とは全く異なる行動であり、見方によっては株主に対する背信行為とも取れます。このような問題も両者の利害が一致していないので発生するエージェンシー問題だと言えます。

1-3.エージェンシー問題を解決するには?

 エージェンシー問題を解決するには以下の方法が効果的です。

1.モニタリングとコーポレートガバナンス体制を強化する。

 一点目は「モニタリングとコーポレートガバナンス体制の強化する。」ことになります。株主はモニタリング・コーポレートガバナンス体制をしっかりと強化することでエージェンシー問題を解決する事が可能です。何故なら経営陣の監視を徹底する事で経営陣は株主に対して虚偽の報告ができなくなるからです。具体的には内部監査の強化、情報開示の徹底、社外取締役の任命等があります。このように経営者が不正を行うことができないよう、監視する仕組みを強化する事でエージェンシー問題を解決する事ができます。

2.経営者の報酬制度を業績連動制度にする。

 二点目は「経営者の報酬制度を業績連動制度にする。」ことになります。株主から経営を委託された経営者の報酬が企業の業績に連動している場合、エージェンシー問題は解決しやすくなります。何故なら経営者の実績と報酬が連動していれば、経営者は好業績を追求することで自分の収入を高める事が可能だからです。あなたが営業部に所属しており営業成績が上がれば自分の収入も上がるのであれば頑張る意欲が沸いてきますよね。逆の場合はそこまでやる気は起こらない筈です。これと同じです。またこれは利害の不一致という問題を解決する方法でもあります。そもそもエージェンシー問題は利害の不一致(又は利害の対立)から生じる問題なので、経営者の報酬と業績を連動させる事は非常に効果的であると言えます。このように経営者の報酬制度を業績連動制度にすることでエージェンシー問題を解決する事ができます。

3.経営者の持ち株比率を上げる。

 三点目は「経営者の持ち株比率を上げる。」ことになります。経営者を株主にすることで、経営者の業績向上意欲を高めることができます。何故なら業績が向上し株価が上昇すれば自分が持っている株式の価値も高まるからです。これはリスクを取るべき局面で、経営者がそのリスクを取る意欲を高める原因にもなります。またストック・オプション制度の導入も効果的です。将来的に現在の価格で株を購入できるのであれば、経営者は必死になって株価を上げようとするからです。このように経営者も株主にして株価を上げるモチベーションを高めさせる事でエージェンシー問題を解決する事ができます。

エージェンシー問題:まとめ

 株主が企業の経営を経営者に委託する場合、必ずエージェンシー問題が発生することになります。そのためこの問題の存在と解決方法をしっかりと把握しておきましょう。そして経営を委託するという話が出た時は常にエージェンシー問題を思い出し、この問題の存在と解決方法をすぐに答えられるようになっておきましょう。エージェンシー問題はMBA受験生には不可欠な知識になりますので、必ずエージェンシー問題について答えられるようになっておいて下さい。