2025年07月02日
外部の利害関係者と財務諸表
外部の利害関係者は次の目的を持って財務諸表を見ています。
1-1.株主・投資家
「株主・投資家」は投資する価値があるかを判断するために財務諸表を見ています。具体的にはしっかり利益が出ているか、投資すべき所に投資できているか、成長率は業界平均と比べてどうか等、財務諸表から企業の状態を判断しています。株主・投資家は本質的に企業がこれ以上は成長しないと思えば株式を売却します。しかし企業が伸びると思えば追加で株を購入したり、新たな投資家が投資を行ったりします。その意味で株式・投資家は企業が投資に値するかどうかを財務諸表から判断していると言えます。さらに、株主や投資家は単に利益や成長率だけでなく、キャッシュフローや財務の健全性も注視します。売上が伸びていても、現金の流れが悪ければ倒産リスクは高まります。また、借入依存度が高すぎる場合は将来の資金繰りに不安が生じます。そのため、財務諸表を通じて「企業が持続的に成長できるか」を多面的に判断しているのです。MBA受験生にとっては、このような投資家の視点を理解することが、ケーススタディや企業分析を行う際に非常に役立ちます。
1-2.金融機関
「金融機関」は債権者として企業が融資を返済できるかという視点から財務諸表を見ています。しっかり利益を出して現金を増やすことができていれば、金融機関は追加で融資を継続したり融資の金額を引き上げたりします。しかし逆に利益が出ていない場合は再建に乗り出したり融資を引き上げる事を検討し始めます。何故なら融資先が倒産すれば債権が回収できなくなるからです。そのため金融機関は融資先企業の財務諸表を融資の視点からしっかり見ています。特に金融機関は、損益計算書の利益水準だけでなく、貸借対照表の自己資本比率や負債比率、キャッシュフロー計算書の営業キャッシュフローなどを注視します。利益が一時的に出ていても、借入金が多く返済能力に乏しい企業には慎重になります。また、長期的に安定した収益を確保できる仕組みを持つかどうかも融資判断の重要な基準です。つまり金融機関は財務諸表を単なる数字の集まりではなく、返済可能性と将来の安定性を見極める手段として利用しています。MBA受験生にとっては、この視点を理解することで企業分析に一層深みを持たせることができます。
1-3.取引先
「取引先」は取引を継続しても良いかという安全性の観点から財務諸表を見ています。例えば製造メーカーが原材料を他の企業から仕入れているとします。もしその企業一社だけに仕入を依存している状態で、その仕入元の企業が倒産すれば、原材料が入手できなくなり同じく連鎖倒産する可能性が生じる事になります。ただ取引先の財務諸表を確認していれば、このような事態が起こる前に別の取引先を確保したり、取引先を切り替えることでリスクを軽減することができるようになります。このように取引先は安全性の観点から財務諸表を確認しています。また取引先は、売掛金の回収リスクや支払能力を見極めるためにも財務諸表を活用します。相手企業の流動比率や当座比率を確認すれば、短期的な支払い余力があるかどうかを判断できます。加えて、継続的に安定した取引を行うためには、相手企業が健全な財務基盤を持っているかが重要です。特に長期契約や多額の取引を行う際には、財務諸表を通じて信用リスクを管理することが不可欠となります。MBA受験生にとっては、こうした実務的な「取引先視点」での財務諸表の読み方を理解することで、ビジネスにおけるリスクマネジメントの基礎を学ぶことができます。
1-4.従業員
「従業員」は雇用が守られるかという観点から財務諸表を見ています。また給与やボーナス等が上がるかという視点からも財務諸表を見ています。何故なら企業が利益を出していないと雇用の安全性が脅かされるからです。また給与やボーナスが上がることを期待することも難しくなります。そのため従業員は雇用の観点から財務諸表を見ています。企業が損失を出し続けると、従業員も自分たちの将来を考えて転職する事も考えるようになります。さらに従業員は、企業がどの程度の投資を行っているかにも注目します。新規事業や研究開発への投資が積極的であれば、将来の成長機会が広がり、結果的に雇用や報酬にもプラスの影響が期待できます。一方で投資が停滞している企業は成長余地が限られ、従業員にとって将来性に不安を感じやすくなります。このように財務諸表は、従業員が「自分のキャリアや生活基盤を託すに値する企業か」を判断する材料となっているのです。MBA受験生にとっては、労働者の立場から財務諸表を読む力を養うことで、より多角的な経営理解につながります。
1-5.税務署
「税務署」は企業が適切に納税を行っているかという視点から財務諸表を見ています。企業の財務諸表を見れば、企業が適切に納税しているかどうかが分かります。何故なら税率は決まっているので、財務諸表を見れば数字に基づいて適切に納税しているかが判断できるからです。ただし企業が粉飾決算を行っているケースもあるので、税務署はこのような事実がないか財務諸表を見てしっかり確認します。もし不自然な点がある場合は税務調査の対象になる事もあります。特に税務署は、売上や利益の計上が正しく行われているか、経費が不正に計上されていないかなどを細かく確認します。例えば異常に高い交際費や、通常の業務内容と一致しない費用が計上されていれば、税務調査のきっかけとなることがあります。また、海外取引やグループ会社間の取引などは、利益操作の手段として利用されやすいため重点的にチェックされます。このように税務署は財務諸表を通じて企業の納税姿勢や透明性を判断しているのです。MBA受験生にとっては、企業経営が税務と切り離せないことを理解することが重要です。
1-6.一般消費者
「一般消費者」は企業の健全性という観点から財務諸表を見ています。例えばあなたが大手家電メーカーから家電を購入したとします。保証期間が5年であったとしても、その企業が赤字を続けている場合は、その企業に対する信頼性は揺らぐことになると思います。また倒産する可能性がある企業から何かを買えば不良品や欠陥品があった場合に訴える先がなくなるリスクすら生じるので、一般消費者もできれば財務の観点から安全な企業から製品やサービスを購入したいと考えています。このように一般消費者は企業の健全性という観点から財務諸表を見ています。さらに消費者は、企業の財務状況が商品やサービスの品質に影響する点も意識しています。資金に余裕がある企業は研究開発やアフターサービスに投資でき、長期的に信頼できる製品を提供し続けられます。一方で財務基盤が弱い企業はコスト削減を優先し、品質低下やサービス縮小につながるリスクがあります。そのため、消費者は購入先を選ぶ際に、表面的な価格やブランドだけでなく、企業の財務的な安定性も重視するようになっています。MBA受験生は、この消費者視点を理解することで、財務諸表が市場競争力やブランド信頼性にも直結することを学ぶことができます。
外部の利害関係者と財務諸表:まとめ
上記の通り多くの外部関係者が財務諸表から企業を判断しているので、財務諸表は極めて重要な報告書になります。そのため財務諸表について学んでおく事は不可欠であると言えます。あなたが企業分析を行う場合も、ケース分析を行う場合も、財務諸表の知識は不可欠です。そのためしっかりと財務諸表に関する知識を身に付けておきましょう。