2025年07月05日
組織文化の構造
エドガーシャイン(Edgar H. Schein)は組織文化には次の三つの階層があると述べています。その三つとはそれぞれ次の通りです。
1-1.人工物
まず一番下の階層は「人工物」になります。
例えば制服・朝礼・儀式・オフィスのレイアウト・ロゴ等が該当します。当然ですがこれらは組織文化を反映しています。何故なら組織が目的を持って決定した内容がこれらに反映されているからです。企業によって朝礼や儀式、ロゴなどは異なりますよね。これらは決して無目的に作られたものではなく、企業の経営陣によって意図的に決められたものになります。
例えばGoogle(グーグル)のオフィスはカラフルで広々としたオープンスペースがあり、ガラス張りの会議室、リラックススペース、ハイテーブルなどで構成されています。またカフェテリアが設置されている事もあります。また服装はスーツ着用の義務がなくTシャツやジーンズで働いている人もいます。これらはGoogle社の自由さ・創造性・柔軟性・形式ではなく実力主義・社員の幸福追求といった姿勢が表れていると言えます。またTGIFというイベントがあり、そこでは経営陣と社員がフラットに会話できる機会が提供されています。これはオープンさ・透明性などを表していると言えます。このように企業の人工物を通して企業の表面的な組織文化を知る事ができます。
しかしこれらの人工物はあくまで表面的なものであり、組織文化の階層としては最も下に位置付けされます。何故なら表面的なものと実態は異なる可能性があるからです。例えば上記のGoogle社の例の通りガラス張りの会議室やオープンスペースを設置している企業があるとします。しかし企業の中にこのような物を見つけたからと言ってその企業がオープンで透明性が高いと断定する事はできません。何故ならそれらの設備は全く使用されていないかもしれないからです。または使用されていても、実際は何でも経営陣が密に決定する文化があるのかもしれません。またそのような文化を払拭するために新たな設備を設置したが、まだ変革の途中であるのかもしれません。つまり表面的な内容から読み取れる事はあっても、それだけを見て組織文化だと決めつけるのは間違っていると言えます。表面的な内容は組織文化を知る上で重要であり、また組織文化を作る上でも非常に重要なものになりますが、効果は比較的低いと言う事ができます。
1-2.標榜された価値観・信条
次に中間の階層は「標榜された価値観・信条」になります。
これらはミッションステートメント、ビジョン、バリュー、行動指針、経営者のスピーチ、社内文章などが該当します。企業が「私たちはこういう組織でありこのように行動すべきである。」と決めた内容になります。MBAを志す社会人なら過去に勤務した事がある企業の中で一度はこのようなものに触れた事があると思います。企業のオフィスやウェブサイトにはミッションや経営理念が書かれているケースも多くありますよね。これらが標榜された価値観・信条になります。当然ですが、これらも組織文化に大きな影響を与えます。何故ならこのような価値観・信条が企業の方向性や行動を規定するからです。企業によっては決まった儀式の中でこれらを声に出して読むこともあるそうですが、このような価値観や信念は組織文化に大きな影響を与えます。何故なら経営陣だけではなく従業員も判断に迷った時に標榜された価値観・信条を指針として行動するからです。そのため標榜された価値観・信条は重要であると言えます。
しかし標榜された価値観・信条は組織文化の階層として最も重要であるとは言えません。何故ならそれが実際の企業の行動と一致しているとは限らないからです。基本的に企業が掲げる価値観・信条は全て立派な内容になっています。反社会的な理念を標榜している組織など、一部の犯罪組織を除くと、あなたも過去に目にした事は一度もない筈です。しかしこの事実が意味するのは、倫理的・道徳的に正しくない事を行っている企業も同じく立派な価値観・信条を掲げていると言う事です。つまり標榜された価値観・信条だけでは真の組織文化は分からないと言えます。もし標榜された価値観・信条と行動が一致しているのなら、道徳的に問題がある行動を取る企業など世の中からなくなってしまいますよね。しかし企業の不祥事やトラブルなどは毎日のように世界中のあらゆる場所で発生しています。そのため標榜された価値観・信条で本当の組織文化を知る事はできないと言えます。企業の組織文化が標榜された価値観・信条と一致しているか否か実際の企業の行動から判断すべきです。つまり最も重要なのは標榜された価値観・信条ではなく、企業の実際の行動であると言う事ができます。実際の行動こそが真の組織文化なのです。
1-3.基本的仮定
そして一番上の階層であり最も重要なのは「基本的仮定」になります。
基本的仮定が最も重要であると言えます。何故ならこれが最も組織文化に影響を与えるからです。基本的仮定とは組織の中で当然だと考えられることです。例えば企業で上司の命令が絶対であると考えられていると、自然とトップダウン型の組織になります。また最も重要なのは利益でありその目標達成には多少の道徳違反があっても構わないと考えられていると、多少のモラル違反でも許容する文化が生まれる可能性があります。逆に利益よりもモラルが大切だと考えられていると、モラルが優先される事になりますが、利益感覚が失われる可能性があります。このように基本的仮定は組織文化を創る上で最も重要なものになります。あなたがMBAを志す社会人なら、もしかしたら「上司に意見を言うなど千年早い!」という雰囲気の組織で働いた経験を有しているかもしれません。もちろん全く逆の文化の組織で働いた経験もあると思います。しかしこれらは標榜されている訳ではなく、組織人それぞれが感じ取る事ができるだけの目に見えない組織文化になります。一般的にどんな組織でもこの目に見えないルールに反すると、その組織から弾かれてしまう事になります。そのためこの基本的仮定というのは最も重要な組織文化になります。
基本的仮定は「1」の人工物や「2」の標榜された価値観・信条で創られる訳ではありません。基本的仮定は経営陣の行動を通して確立されていきます。例えば企業が顧客第一主義であると主張しても自然とそうなる訳ではありません。しかし企業が判断に迷った時に顧客満足を優先させた場合、その行動を通して顧客第一主義という思想が社内に浸透し組織文化になっていきます。また特に企業が人事評価を行う場合に組織文化は形成されることになります。何故なら基本的に組織人は組織から評価されるように行動するからです。例えば企業が多少強引でも高い営業成績を出している社員を昇進させれば、周囲の社員は同じく多少強引にでも契約を取ってくるようになります。逆に企業がそういう行為をしっかりと罰すれば、従業員はモラルを強く意識するようになります。何故ならそうしないと組織内の立場が弱くなってしまうからです。このように直接的に利害が関係する場面で組織文化は形成されていきます。よって組織文化の形成に最も重要なのは企業の行動であり、特に組織人を評価する企業の行動が組織文化に強い影響を与えると認識しておいて下さい。
組織文化の構造:まとめ
以上がエドガーシャインが述べた組織文化の三つの階層になります。これらは非常に重要な概念になりますので、組織文化の形勢について考える場合はしっかりと意識するようにしましょう。