MBA試験で頻出!資本コスト・期待収益率・リスクの関係性をやさしく解説

2025年07月23日

資本コストとは何か?

 MBAの受験には資本コスト・期待収益率・リスクの三つの内容を理解しておく事が不可欠になります。それぞれの詳細は次の通りです。

1-1.資本コストの種類(二種類)

 基本的に「資本コストとは企業がお金を調達するのに発生するコスト」の事を言います。

 企業は株主・債権者からお金を調達します。そして企業はそのお金を再投資する事でそれ以上のお金を生み出す事を目的としています。しかし株主・債権者は企業に出した金額と同じ金額のリターンしか得られないのであればお金を出す意味がありません。そのため株主・債権者はそれぞれリターンを要求します。そのリターンの種類は次の通り株主・債権者の二種類に分ける事ができます。

1.株主(配当金・株価の上昇)

 株主に対するリターンは次の二種類があります。一つ目は「配当金」であり、二つ目は「株価の上昇」です。

 今回は「配当金」に絞って解説させて頂きます。(株価の上昇については別記事で解説します。)まず配当金というのは株主が受け取るリターンの事です。配当金は企業が生み出した当期純利益から株主に利益を還元する事をいいます。配当金の還元率や方法についてはさまざまな取り決めがあり、企業ごとにルールが異なるのですが、企業が利益を生み出す事で株主が受け取る事ができるリターンを配当金と言います。株主は配当金(+株価の上昇)を求めて企業に投資するか否かを検討します。

2.債権者(金利)

 債権者に対するリターンは「金利」になります。これには借入金や社債などがあります。

 少しでも分かりやすくするため借入金の解説をします。銀行でもノンバンクでもいいのですが、基本的に金融期間が企業にお金を貸すのは自分達がそれ以上の利益を得る為です。例えばあなたが他人から「100万円貸してくれ!」と言われても、貸さないですよね。でも1年後に「105万円にして返す!」と信用できる人間から言われたら、寝かしてある預金なら貸すかもしれませんよね。つまりこのように銀行のような金融機関がお金を貸すのはそれ以上のリターンがあるからです。そのリターンを金利と言います。この例であれば金利は5%です。(100万円が1年後に105万円になる。)つまりその100万円を借りた人は、その100万円を使って金利である5万円以上の利益を利益を生みだす必要があります。(もちろん元金も返す必要があります。)そして債権者はこのようにリターンが得られるか否かを検討した上でお金を貸すかを検討します。

1-2.資本コストの計算方法

 基本的に多くの上場企業は株主と債権者の両方からお金を調達しているので、資本コストの値は「株主に還元する配当金と債権者に支払う金利を加重平均した値」を使用します。これを「WACC(ワック)」と言います。WACCについては別記事で解説しますが、WACCはそれぞれを加重平均した企業の正確な資本コストであると認識しておいて下さい。

期待収益率とは何か?

2-1.期待収益率

 期待収益率とは企業が株主・債権者にもたらす事ができる利益の事を言います。例えば企業が100万円を株主・債権者から調達したとします。もし企業がこの100万円を使い継続的に毎年10万円のリターンを生み出す事ができると仮定するなら期待収益率は10%になります。同じ前提で毎年3万円の利益しか生み出せなければ期待収益率は3%になります。企業にとって期待収益率という数字は極めて重要な意味を持ちます。何故なら期待収益率が投資判断の軸になるからです。(厳密には将来のキャッシュフローはDCF法などで現在価値に割り引いて計算します。)

 企業は「期待収益率>資本コスト」と判断したプロジェクトだけに投資を行います。何故ならそうでないと損失が出てしまうからです。例えば期待収益率が5%で資本コストが3%の場合は2%(5-3%)の利益が出る事になります。企業は利益を出す必要があるので、基本的に何か特殊な事情がない限り「期待収益率>資本コスト」以外のプロジェクトに投資する事はありません。このような条件の投資を続けると企業は倒産します。何より投資家・債権者からお金を調達する事が出来ません。そのため企業は期待収益率を予想してから投資の意思決定行います。

 また企業は「期待収益率>資本コスト」と判断したプロジェクトの中から最も期待収益率の高いプロジェクトに投資を行います。これは当然ですが、企業は利益を出す必要があるので、複数あるプロジェクトの中でも最も期待収益率が高いと思われる案件に投資を行います。しかし一点だけ需要なのは、健全な企業ほど期待収益率だけでは投資案件を判断していないという事実があります。例えば建設事業を営む企業が非関連のプロジェクトに投資を行い失敗する例など山ほどあります。これは要するに期待収益率はその企業の持つ強みや既存事業と関係しているという事です。よって企業はミッションやビジョンを定めて投資する先を限定するのが普通です。しかしその上で「期待収益率>資本コスト」が絶対条件であるという事は理解しておきましょう。

資本コスト・期待収益率・リスクの関係性

3-1.リスクとリターン

 

 株主や債権者は「投資案件のリスクが高い場合はその分だけ高いリターンを求める」のが普通です。

 つまりリスクの高低が資本コストを決めるのです。例えばあなたが銀行に10万円預金するのと、常にお金に困っている友人に10万円貸すのを比較した場合、当然ですが前者にお金を預ける選択をすると思います。しかし一般的に銀行にお金を預けると預金金利は非常に低いものになります。何故なら銀行が倒産しない限り(倒産しても一定額までは政府保証がある。)預金は返ってくると考えられるからです。そのため金利が低くても安全性が高いと納得できると思います。しかしこの例で返ってくるか分からない友人にお金を貸す場合、当然ですがより多くのリターンを求める事になると思います。何故ならそうでないと銀行にお金を預ける方が良いからです。つまり市場原理で貸したお金が返ってくる可能性が高い場合はリターンが低くなり、返ってくる可能性が低い場合はリターンが高くなるのです。これは投資でも全く同じです。リスクが高ければ高い分だけ投資家は多くのリターンを求めます。これがリスクとリターンの関係になります。

3-2.リスクと資本コスト

 そのため期待収益率が変動する不確実性が資本コストを引き上げる事になります。具体的は次の通りです。

 

「期待収益率が同じでリスクが異なる投資案件」

案件 成功時のリターン 成功確率 失敗確率 計算式 期待収益率
A 5% 90% 10% (0.05×90%+0×10%)×100% 4.5%
B 15% 30% 70% (0.15×30%+0×70%)×100% 4.5%

 

 上記の投資案件の期待収益率はA・B共に「4.5%」となります。しかしそれぞれの資本コストは異なるものになります。何故ならそれぞれ同じ期待収益率でも投資案件Aの成功確率は90%であるのに対して投資案件Bの成功確率は30%しかないからです。このケースだと4.5%の期待収益率を求める投資家はAを選択します。何故なら90%も成功する確率があるからです。Bに投資すると成功確率が30%しかないので、同じ期待収益率でもリターンが0になる可能性が極めて高い投資になります。
 そのためリスクが高い方が資本コストが高くなるのです。具体的には上記の例だと投資案件Bに投資する場合、投資家は4.5%以上のリターンを求めるようになります。何故なら4.5%のリターンを求めるなら投資案件Aの方が安全だからです。よって投資案件Bでは4.5%以上のリターンを求められるようになり、それは企業にとっての資本コストなので、資本コストは上昇する事になります。よって期待収益率が同じでもリスクの高低によって資本コストは変動してしまうのです。これについてはしっかり覚えておくようにして下さい。

資本コスト・期待収益率・リスクの関係性:まとめ

 以上が資本コスト・期待収益率・リスクの関係性になります。「期待収益率>資本コスト」なら投資は行われますが、リスクが高い場合は資本コストが上昇する事になります。この三つの関係性は投資を考える上で非常に重要なコンセプトであり、MBA受験にも不可欠な知識になりますので、しっかりと覚えておくようにして下さい。