DCF法で企業価値を見極める ― MBAで学ぶファイナンスの核心

2025年08月13日

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)

MBAの受験には「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」を理解しておく必要があります。DCF法の詳細は次の通りです。

1-1.DCF法とは?

 まず「DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)」とは将来得られるキャッシュフロー(現金の流れ)を現在価値に割り引いて企業価値を評価する方法になります。

 例えばあなたが特定の企業に投資するとします。この場合はその事業がどれだけのキャッシュフローを生み出すかを予測して、投資すべきか否かを判断する必要があります。この時に用いる代表的な方法がDCF法になります。

 DCF法で将来のキャッシュフローを現在価値に割り引く必要があるのは、将来得られるキャッシュフローは現在のキャッシュとは価値が異なるからです。(これについては別記事「MBAファイナンスの基礎!現在価値・将来価値・割引率・利率を徹底解説」をご覧下さい。)そのため現在価値に戻して投資すべきかどうかを判断する必要があります。この方法がDCF法になります。

1-2.DCF法の計算方法

 DCF法には三つの計算手順があります。その手順はそれぞれ次の通りです。

 

1.将来キャッシュフローの予測

 まずDCF法では評価対象となる企業やプロジェクトが将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を予測する必要があります。フリーキャッシュフロー(FCF)は「営業利益×(1-法人税率)+減価償却費-設備投資-運転資本増加分」という計算方法で求める事ができますが、ここではFCFについては割愛させて頂きます。(別記事で解説します。)まずは企業が将来生み出すキャッシュフローを求める必要があると認識して下さい。

2.割引率の設定(WACC)

 次にDCF法では将来キャッシュフローを現在価値に割り引くための割引率を設定します。一般的に割引率はWACC(ワック)が使用されます。(WACCについては別記事「コーポレートファイナンスとは?|MBA受験で必須の知識をやさしく解説」をご覧下さい。)尚、WACCで用いる自己資本コストの値はCAPM(キャップエム)などで計算され、投資家が求めるリスクプレミアムを反映します。 他人資本コストは借入金の利率などを指します。CAPMについては別記事で解説させて頂きます。

3.企業価値の算出

 最後に企業価値を算出します。企業価値は「将来キャッシュフロー÷(1+割引率)^t+継続価値/(1+WACC)^nで求める事ができます。(t=年度・n=最終年度)また継続価値(Terminal Value)とは、予測期間終了後も事業が続くと仮定した場合の価値になります。これにより企業価値を算出する事ができます。

1-3.継続価値の計算方法

 継続価値(ターミナル・バリュー)はゴードン成長モデル(永久成長モデル)の計算式で求める事ができます。「継続価値=最終年度のフリーキャッシュフロー×(1+永続成長率)/(WACC-永続成長率)

 このモデルで使用する永続成長率一般的にはインフレ率(又は名目GDP成長率)などを使用します。この計算方法により継続価値を決定した後にその値を企業価値算出の公式に代入する事で最終的な企業価値を算出します。その上で投資を実行すべきか否かを判断するのがDCF法になります。

1-4.DCF法の具体例

 DCF法の具体例は次の通りになります。この例では「期間5年・割引率3%・永続成長率2%・年間キャッシュフロー100万円」で計算します。

 

 

 

 

「期間5年・割引率3%・永続成長率:2%」

キャッシュフロー 現在価値
1年 100万円 約97万円 100万円÷(1+0.03)¹
2年 100万円 約94万円 100万円÷(1+0.03)²
3年 100万円 約92万円 100万円÷(1+0.03)³
4年 100万円 約89万円 100万円÷(1+0.03)⁴
5年 100万円 約86万円 100万円÷(1+0.03)⁵
合計 500万円 約458万円
約7,567万円 (86万円×1.02/0.03-0.02)÷(1+0.03)⁵
企業価値 約8,025万円(約458万円+約7,567万円)

 上記の例だと企業価値は約8,025万円になります。つまり現在のキャッシュで8,025万円より低い金額でこのプロジェクトに投資する事ができれば理論上は利益が出せる事になります。またこの金額より高い金額で投資を行えばマイナスとなるので投資すべきでないと言えます。

1-5.DCF法のメリット

 DCF法のメリットは次の通りになります。

1.実際のキャッシュフローに基づく評価ができる。

 DCF法は利益ではなくフリーキャッシュフローを基準に企業価値を算定します。そのためDCF法は会計基準の影響を受けにくく、実際に企業が生み出す価値を現金ベースで判断できます。そのため投資家や経営者が重視する企業の本質的な稼ぐ力を測るのに適しています。因みに企業の会計基準は変更される場合があります。日本と海外でも会計基準は異なります。そのため会計上の損益は会計基準によって変化します。しかしDCF法は将来キャッシュフローを基に企業価値を算定するので、会計上の損益より確かな評価であると言えます。これがDCF法のメリットの一つになります。

2.企業固有のリスクを反映できる。

 DCF法では企業が独自に割引率(一般的には「WACC」を使用します。)を設定する事ができるので、企業が独自に資本コストや事業リスクを織り込む事ができます。例えば、新興国市場や新規事業のようにリスクが高い案件は割引率を高く設定し、安定事業は割引率を低く設定することで、評価額にリスク要素を織り込む事ができます。このようにリスクを数値化して計算式に織り込む事ができるのがDCF法のメリットの一つになります。

3.長期的価値が測定可能である。

 DCF法は将来のキャッシュフローを前提に計算するため、一時的な景気変動や短期的利益に左右されない長期的な企業価値を評価する事ができます。よってM&Aや大型投資の判断に特に向いています。基本的に将来のキャッシュフローは一時的な景気変動に左右されるのが一般的です。企業が毎年右肩上がりで利益を出し続けるなんて想像できないですよね。しかしDCF法はあくまで長期的な価値を判断するものなので、DCF法で企業価値を算出すれば短期的な変動について大きく考慮する必要はなくなります。このような長期的価値を測定する事ができるのがDCF法のメリットの一つになります。

1-6.DCF法のデメリット

 次にDCF法のデメリットは次の通りになります。

1.将来キャッシュフローの不確実性が大きい。

 DCF法の最大の欠点は、将来キャッシュフローはあくまで予測に過ぎず、予測の精度が悪ければ無意味になるという点になります。売上成長率、利益率、設備投資、運転資本など、多くの予測が数年先まで正確に読めるケースは稀です。結果として将来キャッシュフローは大きくブレる可能性があります。つまりDCF法はあくまで予測であり、予測の精度が高くない限りDCF法で算出した企業価値は意味を持たなくなります。これがDCF法の最大のデメリットになります。

2.割引率や永続成長率の設定に評価者の主観が入る。

 DCF法で用いるWACCや永久成長率は、企業や評価者の判断に左右されます。つまり評価する人間によって変化するのです。例えば、ある人が特定のプロジェクトはリスクが高いと判断し、割引率を1%上げると企業価値が大きく変動します。よって恣意的な評価になりやすいというリスクがあります。ある人(特に上司)が特定のプロジェクトを進めたいという理由で設定する数字を変えれば、企業の評価額は大きく代わり、容易に周囲を説得する事が可能になります。しかしそれだと正しい評価とは言えませんよね。このように常に主観が入る余地があるのがDCF法のデメリットになります。

3.ターミナルバリュー依存度が高い。

 DCF法では算出した継続価値(ターミナルバリュー)が全体評価額の5割以上を占めるケースも珍しくはありません。実際に上記の例だと10倍を超えていますよね。このため永続成長率や割引率のわずかな変更が評価額に大きく影響するという欠点があります。つまりターミナルバリューが評価額に大きな影響を与える以上、ターミナルバリューが高いと必然的に投資価値が高いと判断されます。しかしターミナルバリュー通りの価値があるかどうかは正確には判断できません。よってこれはデメリットであると言えます。

 

DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法):まとめ

 以上がDCF法の解説になります。MBA受験を志すあなたにとってDCF法を理解しておく事は不可欠であると言えます。何故なら企業価値の計算方法を知らないと投資判断を下せないからです。小論文試験や研究計画書にはこれが非常に重要になります。そのため上記の内容はしっかり理解しておくようにしましょう。