2025年04月29日
ファイブフォース分析とは?
ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるマイケル.E.ポーター氏は著者「競争の戦略」の中で、業界とは「互いに代替可能な製品を作っている会社の集団」と定義しています。また業界は「五つの要因が結集して、業界の究極的な収益率、すなわち長期的な投資収益率が決まる。」と述べています。(ダイヤモンド社)その五つとは以下の通りです。
1-1.新規参入の脅威
まず一つ目の要因は「新規参入」になります。
新規参入の脅威が業界の投資収益率を低下させます。これは極めて容易にご想像頂けると思います。例えば街に飲食店が一つしかなければ、飲食店を利用したい人はそのお店に行くしかないので、必然的にお店の立場は強くなります。結果として価格が高くてもその飲食店はお客が集まるお店になります。しかしその街に飲食店が増えれば競争が発生します。その競争により既存の飲食店は価格を下げる必要に迫られます。もちろん新規参入も同じです。このようにしてこの街の飲食店の価格は下がっていくのです。これと全く同じ事が業界という枠組みの中で発生します。特定の業界に参入する企業の数が増えればその分だけ業界の平均利益率は下がる事になります。何故なら企業の数が増えるということは、必然的に競争が発生し価格競争が発生する事になるからです。また製品・サービスの質を高める為にもコストを増加させる必要もあります。よって新規参入が容易な業界は利益率が低くなります。
しかし新規参入の脅威は「参入障壁」を高める事で可能になります。例えば企業が製品を生産する量が多い場合、規模の経済性を利用して低コストで製品を製造する事が可能になります。これは新規参入に対する参入障壁になります。何故なら新規参入を行う企業は最低でも同じ程度の量を製造しないと同コストで製品を製造する事ができないからです。そうなると価格を上げる必要に迫られる事になり、その高い価格によって不利な立場に追い込まれてしまいます。また別の例としては技術やノウハウがあります。例えば特定の企業が新規参入が容易には模倣できない技術力を有している場合、新規参入を行う企業は同じ質の製品を製造する事ができません。これが特許などの法的な権利を獲得している場合はよりその傾向が強くなります。そのため新規参入を行ったとしても損失が発生するだけになる可能性が高まります。これらは一部の例に過ぎませんが、既存の企業はこのように参入障壁を高める事で新規参入を防ぐ事ができるようになります。
1-2.競合他社の脅威
二つ目の要因は「競合他社」になります。競合他社の脅威も業界の投資収益率を低下させます。何故なら競合他社が多ければ多い分だけ、また競合他社が強ければ強い分だけ、自社の利益が脅かされるからです。例えば一企業が特定の業界で独占に近い状態を維持していると仮定します。このケースではその他の脅威がない限り激しい価格競争は起こりません。たとえ低品質の製品・サービスを製造しても、高価格で販売することが可能になります。何故なら顧客はそれらを買うしかないからです。しかしこの業界に複数のライバル企業が存在していると、必然的に競争が発生します。その競争により製品・サービスの質を高める為の努力や、価格を引き下げる必要性に迫られる事になります。結果として、その競争状態は業界全体の平均的な利益率を脅かすことになります。独占に近い業界の平均利益率は高くなり、競争が激しい業界の平均利益率は低くなると覚えておいて下さい。
1-3.代替品の脅威
三つ目の要因は「代替品」になります。
代替品の脅威も業界の利益率を脅かします。何故なら特定の業界に強い代替品があればその業界の製品・サービスは売れなくなってしまうからです。例えばコーヒー豆の栽培業者が他の栽培業者と競争するのは当然ですが、コーヒーをカフェイン飲料と定義した場合、同じカフェイン飲料である紅茶の栽培業者も競争相手となります。何故ならカフェイン飲料と定義するとコーヒーも紅茶も同じニーズを満たしてくれる商品だからです。また別の例を挙げると、例えば車を移動手段と定義した場合、同じニーズを満たしてくれる電車やバス・バイクなども競争相手になります。これが代替品の脅威になります。
代替品を製造する業界の競争力が強くなった場合、必然的に業界の利益率も低下します。例えばコーヒー豆の業者同士で争いが起こらなくても、紅茶の栽培業界全体が何らかの理由で低価格を実現できるようになった場合、熱狂的なコーヒーファンではないユーザーはカフェイン飲料として紅茶を飲むようになるのかもしれません。移動手段としての車を販売している時に、急にバイク業界に技術革新が起こり価格が下落した場合、移動手段を求めるユーザーは車ではなくバイクを購入するようになるのかもしれません。このように代替品の存在は業界の投資利益率を脅かします。
1-4.供給者の脅威
四つ目の要因は「供給者」になります。供給者の脅威も業界の利益率を脅かします。何故なら仕入価格が上昇すれば製品を製造するコストが増加するからです。例えば特定の製品を製造するのにAという部品が絶対に必要であるとします。この製品を作る業界はAという部品を供給する業者が値段を上げてきた場合、その価格の上昇を受け入れなければならない状態に追い込まれます。何故なら、その部品がないと製品が製造できないからです。つまり供給者の脅威も業界の利益率を低下させるのです。当然ですが、利益がマイナスになるのであれば業者はその製品の製造を辞めてしまうので、利益率が0%になる寸前までは供給者の値上げを承諾しなければならない状態となります。以上の理由から業界は供給者の脅威を常に意識しなければならないと言えます。これに対する対抗策は幾つか存在しますが、一つ例を挙げると、別の部品でも製品を製造するよう製品設計を変更する事などが挙げられます。これにより供給者の脅威から業界の利益率を守る事ができるようになります。
1-5.購入者の脅威
五つ目の要因は「購入者」になります。
購入者の脅威も業界の利益率を脅かします。何故なら購入者が購入しなければ売上利益が成り立たないからです。これは当然の事に思えますが、実は購入者というのは必ずしも強い立場であるとは限りません。例えばスーパーマーケットで飲食物を購入する主婦は購入者ですが、飲食物を買わずに生活する事は不可能です。また特定の主婦が特定の飲食物を購入する必要があり、その飲食物が特定のお店でしか買えないのであれば、価格が高かったとしても購入せざるを得なくなります。その飲食物を求める人が多ければ更にその価値は高まります。しかしその飲食物がオンラインや別の店舗で容易に購入できる場合は、お店はその飲食物の価格を引き下げる必要があります。何故ならそうしないと売れないからです。このように購入者の立場が弱い場合は業界の利益率は高くなりますが、購入者の立場が強い場合は業界の利益率が低くなります。これが購入者の脅威になります。購入者は一般消費者だけではなくサプライチェーン上の業者であるケースもあるので、購入者の脅威についてもしっかりと理解しておいて下さい。
ファイブフォース分析:まとめ
以上がファイブフォース分析のまとめになります。ファイブフォース分析は経営理論の中でも特に小論文問題や研究計画書の根拠として知っておく必要があることが多くあります。そのためこのファイブフォース理論はしっかり理解した上で覚えておいて下さい。そしてあなた自身で企業分析や意見の根拠として利用できるようになって下さい。