2025年04月30日
マイケル・E・ポーターの競争戦略
ハーバード・ビジネス・スクールの教授であり、競争戦略の第一人者として有名なマイケル・E・ポーター氏は、競争に勝つ為の戦略として次の三つの戦略を提唱しています。その戦略とはそれぞれ以下の通りです。
1-1.コストリーダーシップ戦略
まず一つ目の戦略は「コストリーダーシップ戦略」になります。
コストリーダーシップ戦略は、企業が他社と比べてコスト面で有利になることを目指す戦略です。競合他社よりもコスト面で有利になれば、必然的に売上を伸ばしシェアを獲得する事が容易になります。例えば競合他社が500円で製造した製品を1,000円で販売しているとします。この時に同じ製品を300円で作ることができれば800円で販売しても同じ利益を出す事ができます。そうなると顧客を獲得することが容易になり売上・シェアを容易に伸ばすことができるようになります。また仮に競合他社が800円に値下げしたとしても、利益率が異なるので、競合他社は少ない利益率で事業を営む必要性に迫られます。結果として競争を有利に進めていく事ができるようになります。このようにコスト削減を実現することで競合他社に打ち勝つ戦略を「コストリーダーシップ戦略」と言います。
コストリーダーシップを実現するには幾つかの方法があります。例えば製造量を増加させると、規模の経済の論理で一製品当たりの製造単価を下げる事ができるようになります。多くの原材料を購入すれば単価が下がるという事はご理解頂けると思います。またオペレーションの効率化やプロセス改善を行うことで一製品当たりのコストを削減する事もできます。これは現状で改善点が多い場合は特に効果的です。更には累積生産量を増加させる事による経験効果からコスト削減を実現する方法もあります。累積生産量が増える事で企業はより効率的に製品を製造する事ができるようになります。また製品を標準化する事や製品ラインナップを絞り込む事でコストを下げたり、サプライチェーンの最適化を行う事でコストを削減する事もできます。これらの方法でコストリーダーシップを実現することで、コストを下げる事ができるようになり、結果として競合他社に対する競争優位を築くことができるようになります。
1-2.差別化戦略
次に二つ目の戦略は「差別化戦略」になります。
差別化戦略とは企業が自社の製品・サービスを、他社の製品・サービスと明確に異なるように作り上げる戦略です。差別化戦略により企業は高い価格で製品を売る事ができるようになります。例えば他社には作れないマーケットが求める製品・サービスを自社だけが作れる場合、それは競合他社と差別化できていることになるので、価格競争に巻き込まれる事はなくなります。何故なら顧客はその企業の製品・サービスを購入する事でしかニーズを満たす方法がないからです。このように企業は差別化を行う事で自社に有利なポジションを築く事ができるようになります。結果としてその企業の製品・サービスは高い価格で売れるようになります。
また差別化戦略には製品・サービスを差別化する事に加えて、顧客サービス(カスタマーサポート)を差別化したり、ブランディングで差別化する方法などがあります。これらの戦略も同じく差別化を強化します。例えば顧客サービスを同業他社が模倣できない程度まで差別化した場合、製品の水準は同業者と同じでもその企業が顧客から選ばれる事になります。またブランディングを行えば、過去にそのブランドに満足した顧客からの購買率が高まるので、同じく差別化する事が可能であると言えます。つまり差別化戦略が実現できれば顧客は競合他社より自社の製品を購入するようになるのです。
しかし差別化戦略はコストパフォーマンスが重要であると言えます。何故なら高いコストを掛ければ競合他社と異なる製品やサービスを新たに創り上げることはできますし、顧客サービスを向上させる事も可能です。またブランディングを行う事も可能です。しかしそれに掛かるコストの分だけ顧客が多くの料金を支払ってくれない場合、差別化戦略が成功したとは言えません。つまり差別化戦略は常にコストとのバランスで成否が決まります。
1-3.集中戦略
最後に三つ目の戦略は「集中戦略」になります。
集中戦略は企業が特定の顧客層や製品群に経営資源を集中させる戦略になります。集中戦略を行うことで企業は効率的に顧客を獲得する事ができるようになります。何故なら一点に集中する方が多くの点に集中するより効率的だからです。例えばあなたが言語を学ぶ時に、英語・中国語・フランス語の三教科を少しずつ勉強するより、一つの言語に絞って勉強した方が効率的に短期間で上達できるようになるという事は理解できると思います。本質的にはこれと全く同じです。企業も集中する事で効率的になるのです。
企業が複数の顧客セグメントをターゲットにしたり、複数の製品やサービスを扱っていると、強みを作るのが難しくなります。何故なら規模の経済や範囲の経済を実現することが難しくなるからです。顧客セグメントがいくつかに分散している場合、それぞれのセグメントに別々に製品の魅力を訴求する必要が生じるため、マーケティングやオペレーションが分散し、それぞれの効率が低下することになります。また複数の製品やサービスを扱っていると、仕入れの種類が分散し、共有可能な設備が減ってしまうので、それぞれのコストを低減させることが難しくなります。更に言えば累積生産量も個々の種類ごとに分散してしまうので、経験効果も獲得するのが難しくなります。そのため企業は顧客セグメントや製品・サービスを集中させる事で効率的に経営を行うことができるよゆになります。
またこれも重要な点になりますが、企業が集中戦略を実行すれば「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」のいずれか又は両方が自動的に実現できるようになります。企業が顧客セグメントを絞ればその顧客セグメントに全ての経営資源を投入できるので、その顧客セグメントにとり価値の高い製品やサービスを創造する事ができるようになります。これは差別化戦略に外なりません。また企業が製品やサービスを絞れば、その製品やサービスを創る事に全ての経営資源を投入できるので、必然的に競合他社に対する模倣困難性の高い製品やサービスを作り上げる事ができるようになります。これも差別化戦略に外なりません。
更に企業が集中戦略を実行し特定の顧客セグメントに向けた製品やサービスだけを作り上げる場合、規模の経済性や経験効果によるコスト削減が見込めるようになります。何故なら扱う製品を特定のものに絞る事で、規模の経済や累積生産量の拡大による経験効果のコスト削減を実現しやすくなるからです。よって企業が集中戦略を実行すれば、結果的に「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」の両方が実現できるというケースが多くあります。特に企業の規模や経営資源が競合他社より小さく少ない場合は、集中戦略は競争戦略として王道の戦略になります。
マイケル・E・ポーターの競争戦略:まとめ
以上がマイケル・E・ポーター氏の三つの戦略になります。ポーター氏の上記の三つの戦略は経営について考える上で極めて重要な理論になります。そのため上記の三つの概念をしっかりと理解した上で覚えておくようにして下さい。