2025年05月01日
目次
意図的戦略とは?
1-1.意図的戦略
まず「意図的戦略」とは企業が計画して策定した戦略です。
そもそも戦略というのはビジョンを実現する為に事前に計画されます。例えばビジョンが「シェアが10%の企業が5年以内にシェアを30%に伸ばす」というものだとすると、そのために何が必要かという事を細かく決めた行動プランが戦略です。その内容としては、資金集めの方法から、投資先、採用や人員配置、事業部の設定等、多くの投資家を納得させる必要がある大企業であればその分だけ綿密な戦略が求められます。そしてその戦略を実行していく事になりますが、このように事前に計画した戦略を「意図的戦略」と言います。意図的戦略の成功例はトヨタ社のレクサスが挙げられるでしょう。トヨタ社の自動車は1989年までは高品質で低価格なもの(つまり大衆向けの自動車)としての評価を得ていました。しかし高級車市場ではトヨタ社の自動車は高評価を得ていませんでした。そのためトヨタ社は高級車市場で成功するという決意の下、戦略を練り、1989年に高級車ブランドであるレクサスを創りました。周知の通りレクサスブランドは米国でも大成功しました。これが意図的戦略になります。
1-2.意図的戦略のメリット・デメリット
意図的戦略のメリットは組織全体を一貫した方向に導く事ができるというものになります。意図的戦略は事前に作り上げた戦略になります。つまり行動前に戦略が決まっているので、組織全体をその方向に進めていく事ができます。特に企業の規模が大きい場合は組織を動かすのが大変です。何故なら多くの役職の従業員が常に同じ考えを共有している訳ではないからです。そのため途中で軌道の変更を迫ったり、方向性に不服を述べる人間が現れる可能性もあります。またそれが企業の為であればまだ良いのですが、個人の勝手な願望から述べる可能性も想像できます。しかし意図的戦略を実行する事でこのような組織を統一して特定の方向に向かわせる事ができるようになります。これは特に経営陣がトップダウンで戦略を実行したい場合は効果的だと言えます。
意図的戦略のデメリットは環境変化への柔軟な対応が難しいというものになります。意図的戦略は事前に作り上げた戦略になります。しかし現場の状況は戦略策定時と異なる可能性があります。これが事前に想定できたものであればいいのですが、そうでない場合は無理にそのまま進めていくと破滅的な結果となる可能性があります。例えば海外のマーケットに新規参入の戦略を策定し実行したとします。しかしその国で例えばテロ事件が発生し、顧客行動やマーケットの状態が変化した場合、それを想定していない意図的戦略を強引に断行するとただ損失が膨らむだけの可能性が高くなります。このように意図的戦略のデメリットは柔軟性が低いというものになります。
創発戦略とは?
2-1.創発戦略
次に「創発戦略」とは企業が途中で変更した戦略です。
当然ですが企業が策定した意図的戦略は途中で想定外の状態となり変更を余儀なくされるケースがあります。何故なら市場や顧客、競合他社、サプライヤーや潜在的な競争相手は企業の計画通りに動くとは限らないからです。最も分かりやすいのは、売れると思って作った商品が計画通りに売れなかったり、仕入れや流通業者が計画とは異なる行動を取ってきたケースなどでしょう。このように意図的戦略が上手くいかなかった場合は戦略を練り直す必要があります。何故なら、当初の戦略(意図的戦略)を無理に断行すると、損失が拡大するのは明白だからです。そのため企業は現実に対応しながら柔軟に戦略の変更を行う必要があります。このように途中で意外な結果から新たな気付きを得て変更した戦略を創発戦略と言います。
創発戦略の有名な事例としてはホンダ社が米国に進出した時のケースが挙げられます。ホンダ社は米国の二輪市場に参入した時、戦略通りにバイクが売れないという事態に直面しました。しかしその後、小型スクーターが米国で求められていると気付き、戦略を変更し小型スクーターを販売し始めました。その後、ホンダ社はニッチ市場であった小型スクーター市場を開拓し、最終的にはバイク市場で過半数のシェアを握る事に成功しました。もしホンダ社が大型の二輪バイクを売るという当初の計画に拘っていたら、このような成功を収める事はなかったと考えられます。その意味で、創発戦略は、戦略策定時に於いては常に意識すべき重要なコンセプトであると言えます。
2-2.創発戦略のメリット・デメリット
創発戦略のメリットは変化に対する柔軟性が高いというものになります。企業が策定した意図的戦略が必ずしも計画通りに進むとは限りません。そしてそれを無理に断行すると悲惨な結果を招く事になります。しかし創発戦略を採用する事で途中で柔軟に戦略を変更する事ができるようになります。先ほどのホンダ社の例もそうですが、それ以外にも創発戦略で成功した事例は数多くあります。しかしこれらの企業が意図的戦略に固執していたら成功する事はなかったと言えます。このように戦略の柔軟性こそが創発戦略のメリットになります。
創発戦略のデメリットは全体の戦略性や整合性が取りにくいというものになります。途中で戦略を変更できるとなると一貫した戦略に基づく行動を取る事が難しくなります。結果としてそれは組織をバラバラにしたり、一貫性のない動きによる戦略失敗という結果を引き起こす可能性もあります。例えば上記のホンダ社の例では、小型スクーターを販売する戦略に成功したから良かったものの、もし創発戦略が間違っており、意図的戦略(二輪市場に参入)の方が正しかった(例えば価格設定が間違っていただけ等)場合、創発戦略を導入した事により失敗という結果になったのかもしれません。また創発戦略も一つだけでなくさまざまな変更内容が考えられるので、どの意見を採用して良いか難しいという点も重要になります。そのため創発戦略による失敗という事も充分に考えられますし、実際に創発戦略で失敗した例も多く存在します。
意図的戦略と創発戦略
3-1.経営戦略の目的
経営戦略というのは企業が成功する為に策定するものです。しかし意図的戦略と創発戦略のいずれを採用するかは極めて難しい経営判断になります。いずれの戦略を選択しても成功すれば美談になりますが、失敗すれば徹底的に追及される事になります。しかしいずれが正しいのか完全な根拠に基づいて判断する事が難しいので、戦略策定者と実行者(経営者)の力量が問われる事になります。これは何も企業経営に限った話ではありません。プロスポーツの試合でも必ず勝利に向けた戦略が策定されます。しかし途中でその通りにいくケースなどむしろ稀かもしれません。その時にそのまま戦うか、戦略を変えるか、変えるならどの部分を変えるかというのは極めて難しい判断になります。企業経営の場合は大きな投資を行った後で戦略を変更するのは難しいので、変更できるものとそうでないものを事前に意識しながら戦略を実行する必要があります。そもそも戦略の目的は目標を達成することです。目標達成の為に事前に計画した戦略が通用しないと分かればどうするかをしっかりと定めおく必要があります。
3-2.意図的戦略と創発戦略の提唱者
意図的戦略と創発戦略の対比を明確に提唱したのはヘンリー・ミンツバーグ氏になります。これを「ミンツバーグの戦略形成理論」と言います。ミンツバーグ氏は戦略とは固定的なものではなく進化しながら形成される動的なプロセスであると主張しました。また実際に実行された戦略(意図的戦略と創発戦略の組み合わせ)についても言及しています。ミンツバーグの戦略形成理論については概略だけに留めますが、この提唱者についてもしっかりと覚えておくようにして下さい。
戦略の種類と目的:まとめ
以上が意図的戦略と創発戦略の違いになります。経営戦略に関する知識として上記の違いを知っておく事は非常に重要になりますので、これらの違いをしっかり覚えておくようにしましょう。