ブランド・エクイティを築くには?MBAで学ぶ実践型ブランド戦略入門

2025年10月07日

ブランド・エクイティとは?

1-1.ブランド・エクイティとは?

 「ブランド・エクイティ」とは消費者がそのブランドに抱く信頼・好感・価値認識などが生み出す無形の資産価値のことです。

 これは単にロゴやデザインといった見た目の問題ではなく、消費者の心の中に積み重ねられた印象や体験の総体を指します。ブランド・エクイティが高い企業ほど、消費者はそのブランドを信頼し、多少価格が高くても購入を選択する傾向があります。こうした関係性の深さが、競合他社との明確な差を生み出します。

 ブランド・エクイティという考え方が注目されるようになった背景には、製品やサービスの差別化が難しくなった市場環境があります。ブランド・エクイティという考え方が注目されるようになった背景には、製品やサービスの差別化が難しくなった市場環境があります。現代では、機能面や品質面での違いが小さくなり、消費者は「どのブランドから買うか」という感情的な判断に基づいて購買行動を取るようになりました。そのため、ブランドが持つ信頼性や社会的イメージ、共感できるストーリーが、選ばれる理由の中心になっています。

 ブランド・エクイティは、複数の要素によって構成されています。まず重要なのはブランド認知です。どれほど優れた商品であっても、消費者がその存在を知らなければブランドとして成立しません。次にブランド連想が挙げられます。これは、そのブランド名を聞いたときに消費者の頭に思い浮かぶイメージや感情のことです。たとえば「高級感」「安心感」「革新性」といったポジティブな印象が多いほど、ブランド価値は強化されます。さらに、知覚品質と呼ばれる概念もあります。これは実際の品質だけでなく、消費者が感じ取る品質の高さを指します。広告、口コミ、デザイン、サービス対応などの要素が組み合わさって、ブランドに対する品質のイメージが形成されます。そして最終的に重要なのがブランド・ロイヤルティです。これは、顧客が継続的に同じブランドを選び続ける傾向のことを意味します。ロイヤルティの高い顧客が多いブランドほど、市場変化や価格競争に強く、安定した収益を維持しやすくなります。

 MBAの観点から考えると、ブランド・エクイティはマーケティングの枠を超えた経営資産として捉えられます。強いブランドを持つ企業は、広告費を抑えても自然と顧客が集まりやすく、新製品を投入する際にも信頼を背景にスムーズな市場浸透が期待できます。また、ブランドの評価は企業価値にも影響を与えます。投資家やパートナーにとっても、ブランドの持つ社会的信頼や将来性は重要な判断材料となります。

 ブランド・エクイティの本質は、企業が一方的に作り上げるものではなく、消費者との関係性の中で育まれていく点にあります。消費者がブランドに触れるたびに感じる体験や印象の積み重ねが、そのブランドの価値を形づくります。したがって、企業にとって大切なのは、製品やサービスの品質を維持するだけでなく、顧客との信頼関係を継続的に深めていくことです。その積み重ねこそが、長期的なブランド価値の源泉となります。

ブランド・エクイティを築く方法

 ブランド・エクイティは次の三つのステップで築く事ができます。

2-1.ブランド要素の選択

 一つ目は「ブランド要素の選択」になります。

 一つ目のステップであるブランド要素の選択は、ブランド・エクイティを築く上で最も基礎的かつ重要な段階です。ブランド要素とは、消費者がブランドを識別・記憶するための手がかりとなる要素のことで、具体的にはブランド名、ロゴ、シンボル、キャッチフレーズ、キャラクター、パッケージデザイン、さらには音や色なども含まれます。これらの要素は、ブランドの第一印象を決定づけ、消費者との心理的なつながりを形成する起点となります。したがって、どの要素をどのように選ぶかは、ブランド戦略全体の方向性を大きく左右します。

 まずブランド要素の選定では、記憶されやすさと認識のしやすさが重要です。消費者が容易に覚えられ、他社ブランドと区別できる特徴を持つことが求められます。たとえば、短く発音しやすいブランド名や、印象に残るロゴデザインは、消費者の記憶に残りやすく、再購入や口コミ拡散にもつながります。また、視覚的・聴覚的に一貫性のあるブランド要素を設計することで、異なるメディアやチャネルでも統一された印象を与えることが可能になります。

 次に重視すべきは意味性と魅力性です。ブランド要素がブランドの提供価値や理念を象徴していることが、消費者の共感や信頼の形成に直結します。たとえば、自然派ブランドなら柔らかい色調や植物をモチーフにしたロゴを用いるなど、ブランドの世界観を視覚的に表現することが効果的です。また、言葉の響きや造形の美しさ、ストーリー性を持たせることも、消費者に愛着を抱かせる要因となります。

 更に適応性と保護性も長期的なブランド成長を支える要件です。市場やターゲット層の変化に柔軟に対応できるデザインや名称であること、また法的に商標登録が可能で他社に模倣されにくいことも重要です。ブランド要素が将来的に異なる商品カテゴリーや国際市場に展開される可能性を考慮し、グローバルに通用する汎用性を持たせることが望まれます。

 このように、ブランド要素の選択は単なるデザイン作業ではなく戦略的意思決定そのものです。ブランドの核となる価値を象徴し、消費者の心に強く残る要素を慎重に選び抜くことが、強固なブランド・エクイティを築くための第一歩となります。

2-2.マーケティング活動の設定

 二つ目は「マーケティング活動の設定」になります。

 二つ目のステップであるマーケティング活動の設定は、選定したブランド要素を実際に消費者に浸透させ、ブランド・エクイティを具体的に高めていく為の段階です。どれほど優れたブランド要素を持っていても、それを効果的に伝えるマーケティング活動がなければ、消費者の認知や信頼には結びつきません。そのため、ブランドの価値を最大限に引き出すためには、戦略的かつ一貫性のあるマーケティング活動を設計することが欠かせません。

 まず重要なので一貫したメッセージの発信です。広告、販売促進、パブリシティ、SNSなど、あらゆるコミュニケーションの場面でブランドの世界観や価値観を統一することが求められます。消費者は、異なる媒体を通しても同じトーンやメッセージを感じ取ることで、ブランドへの信頼を深めます。たとえば、高級ブランドであれば上品で静かなトーンを維持し、若年層向けブランドであればカジュアルで親しみやすい表現を用いるなど、ターゲットの特性に合わせた一貫性が重要です。

 次に統合的マーケティング活動の実践がポイントとなります。広告やプロモーションだけでなく、製品の品質、価格設定、販売チャネル、顧客対応など、すべてのマーケティング要素を統合的に設計することで、ブランド価値を一貫して伝えることができます。例えば、高品質を訴求するブランドが過度な値引き販売を行えば、ブランドイメージが損なわれる可能性があります。そのため、マーケティング活動全体をブランド戦略の文脈で整合させることが重要です。

 更に消費者との関係性の深化もブランド・エクイティを高める上で欠かせません。現代のマーケティングでは、単に情報を発信するだけでなく、双方向のコミュニケーションを通じて消費者との絆を強めることが重視されています。SNSでのエンゲージメントや顧客ロイヤルティ・プログラム、イベント参加などを通じて、消費者に「自分がブランドの一部である」と感じさせることが、持続的な関係構築につながります。

 このように、マーケティング活動の設定とは、単なる販促手段の設計ではなく、ブランドの存在価値を市場で確立する為の統合的な戦略です。計画的で一貫性のある活動を継続することで、消費者の認知・好感・信頼を高め、最終的にはブランド・エクイティの持続的な向上へとつながります。

2-3.二次的連想の利用

 三つ目は「二次的連想の利用」になります。

 三つ目のステップである二次的連想の利用は、ブランド・エクイティを更に高める為に高度な戦略です。これは、ブランドそのものが直接生み出す価値だけでなく、他の存在や要素と結びつけることで、間接的にブランドのイメージを強化する方法を指します。消費者はブランドを単独で評価するのではなく、そのブランドが持つ外部との関連性や文脈からも印象を形成します。そのため、二次的連想を戦略的に設計することが、ブランドの信頼性や好感度を向上させる鍵となります。

 まず、最も一般的な方法が人物との連想です。有名人やインフルエンサーを起用した広告やコラボレーションは、消費者がその人物に抱く好意的なイメージをブランドに転移させる効果を持ちます。たとえば、誠実で信頼できるイメージの俳優を起用すれば、ブランドにも同様の印象が付与されます。ただし、選定する人物がブランドの価値観と一致していることが重要であり、不一致が生じるとブランドイメージを損なうリスクもあります。

 次に、場所や国、イベントとの連想も効果的です。例えば、「日本製」や「京都発」といった表現は、品質の高さや伝統といった文化的価値を想起させ、ブランドに特有の信頼感をもたらします。また、スポーツ大会や芸術祭などのスポンサーシップを通じて、ブランドが社会的貢献や文化活動に関与している印象を与えることも可能です。このような連想は、単なる商業的活動を超え、ブランドを社会的存在として位置づけることにつながります。

 更に他ブランドとの提携も二次的連想の一種です。信頼性の高い企業や人気ブランドとのコラボレーションは、互いのイメージを補完し合い、新たな顧客層へのリーチを可能にします。たとえば、高級ブランドとテクノロジー企業の共同開発によって、伝統と革新の両面を兼ね備えた魅力を発信することができます。

 このように、二次的連想の利用は、ブランド単体では得られない新たな価値を付加し、消費者の心の中でブランドをより深く印象付ける手段です。外部とのつながりを通じてブランドの信頼性や文化的価値を高めることで、長期的なブランド・エクイティの強化が実現します。

ブランド・エクイティ:まとめ

 以上がブランド・エクイティのまとめになります。ブランド・エクイティの構築は、単なる認知度の向上ではなく、消費者の心に「意味ある価値」を築くプロセスです。ブランド要素の選択、マーケティング活動の設定、二次的連想の利用という三つのステップを一貫して実践することで、ブランドは強固な信頼と共感を獲得します。最終的には、消費者がそのブランドを「選び続けたい」と感じる状態を作り出すことが、真のブランド・エクイティの確立につながります。MBA受験に向けて上記をしっかりと理解しておきましょう。