2025年10月08日
製品レベル5段階
「製品レベル5段階」とは顧客が「製品」から得る価値を5つのレベルに分解し価値を体系的に捉える考え方です。それぞれの詳細は次の通りです。
1-1.中核価値
一点目は「中核価値」になります。
製品レベル五段階の最も基礎となるのが中核価値です。これは、顧客が製品やサービスを購入することで得たいと考える根本的な利益や価値を指します。企業がどれほど高機能な製品を提供しても、この中核価値が顧客のニーズと合致していなければ選ばれることはありません。つまり、中核価値は「顧客が本当に求めているもの」であり、すべての製品開発やマーケティング戦略の出発点となる概念です。
例えばドリルを購入する顧客はドリルそのものが欲しいのではなく穴を開けるという目的を達成したいと考えています。更にその先には、「棚を取り付けて部屋を整理したい」「家を快適にしたい」といった本質的な価値が存在します。このように、企業は製品の表面的な機能や仕様だけでなく、顧客がどのような目的を持ち、どんな課題を解決したいのかを深く理解する必要があります。
MBAでこの理論を学ぶ意義は製品を単なるモノとして捉えるのではなく、価値提供の構造を理解することにあります。中核価値を明確に把握できる企業は、顧客満足度を高めるだけでなく、競合との差別化やブランド戦略にも優位性を持つことができます。反対に、この価値を誤ると、顧客の期待に応えられず市場での地位を失う危険があります。そのためマーケティング戦略を立てる際には、顧客の視点から「本当に求めている価値」を見極め、それを中心に製品設計やサービス開発を行うことが重要です。
1-2.基本価値
二点目は「基本価値」になります。
基本価値とは、顧客が求める中核価値を現実の形として具体化したものを指します。中核価値が「顧客が本当に得たい利益」であるのに対し、基本価値はそれを実現するための基本的な機能や構成要素です。言い換えれば、製品やサービスが最低限備えておくべき性能や特徴であり、顧客がその製品を「製品として認識できる」ための条件といえます。スマートフォンであれば通話や通信機能、ディスプレイ、バッテリーなどがこれに該当します。これらがなければ、顧客が求める「情報通信手段を得る」という価値は成立しません。
企業にとって基本価値は競争の土台を形成する要素です。どれほど優れたデザインや独自のサービスを提供しても、基本価値が欠けていれば顧客満足は得られません。たとえばホテルであれば、清潔な寝具、快適な温度管理、鍵のかかる安全な部屋などが最低限必要な条件です。これらの基本が確保されていない場合、どれほど豪華な設備を整えても顧客の信頼を得ることはできません。MBAの観点では、基本価値をいかに確実に満たすかが、製品やサービスの品質マネジメントの基盤となります。
また基本価値は市場や顧客セグメントによって異なります。ある市場では標準的な機能が、別の市場では高付加価値と見なされることもあります。そのため、ターゲット顧客が「当然期待する」水準を正確に把握し、それに応じた製品設計を行うことが重要です。企業はまずこの基本価値を安定的に提供し、その上で次の段階である期待価値や膨張価値へと発展させていくことで、継続的な競争優位を築くことができます。
1-3.期待価値
三点目は「期待価値」になります。
期待価値とは顧客が製品やサービスを購入する際に当然備わっているだろうと考える性能や品質・条件を指します。中核価値や基本価値が「最低限の存在条件」であるのに対し、期待価値は顧客がその製品に対して抱く具体的な期待水準を反映したものです。たとえば、スマートフォンであれば操作のしやすさや通信の安定性、十分なバッテリー持続時間などが期待価値に含まれます。ホテルであれば、清潔な部屋、快適な寝具、適切な接客態度などが代表的な例です。
この期待価値は顧客が過去の経験や他社製品との比較を通じて形成する為、業界の標準や競合の提供水準によって変化します。そのため、企業は市場環境を常に把握し、顧客の期待を的確に読み取ることが求められます。もし期待を下回る品質やサービスを提供すれば、顧客満足度は低下し、ブランドイメージの損失にもつながります。逆に、期待価値を安定して満たすことができれば、顧客の信頼を獲得し、リピート購入や口コミによる拡散を促進する効果が期待できます。
MBAの学びにおいて重要なのはこの期待価値を基準点として捉える視点です。多くの業界では、期待価値を満たすこと自体が競争の前提条件であり、それを超える価値を提供する段階(次の膨張価値)に差別化の余地が生まれます。したがって、企業はまず顧客の期待を正確に理解し、それを確実に実現するプロセスを整備することが不可欠です。品質管理やサービス基準の設定、従業員教育などは、まさにこの期待価値を安定的に提供するための仕組みと言えます。
1-4.膨張価値
四点目は「膨張価値」になります。
膨張価値とは顧客が製品やサービスを選ぶ際に期待する基本的な条件を超えて追加で提供される付加価値の事を指します。中核価値・基本価値・期待価値が満たされて初めて認識されるものであり、顧客の満足度やブランドの印象を大きく左右します。たとえば、スマートフォンであればデザイン性やアフターサポート、クラウドサービスの連携、エコシステムへの接続性などが膨張価値にあたります。ホテルであれば、ウェルカムドリンクや無料Wi-Fi、コンシェルジュサービス、特別な体験プランなどが挙げられます。これらは単なる付加機能ではなく、顧客に「期待以上の価値」を提供する要素です。
膨張価値の重要性は企業が競合との差別化を図る上で特に高まります。期待価値を満たすだけでは市場で埋もれてしまうため、膨張価値によって他社にはない独自性を打ち出すことが可能です。たとえば、同じスマートフォンでもデザインやサポート体制、アプリの充実度などが消費者の選択理由になることがあります。MBAのケース分析では、この膨張価値がどのように競争優位性に寄与しているかを評価することがよく求められます。
また膨張価値は顧客ロイヤルティやブランド価値の向上にも直結します。顧客は期待以上の体験を得ることで満足度が高まり、再購入や口コミ拡散につながります。そのため、企業は単なる機能の追加ではなく、顧客の潜在ニーズや体験価値を深く理解した上で膨張価値を設計することが重要です。マーケティング戦略では、膨張価値を通じて製品・サービスの魅力を高め、競合との差別化と長期的な競争優位の確立を目指すことが基本となります。
1-5.潜在価値
五点目は「潜在価値」になります。
潜在価値とは現時点では製品やサービスに実装されていないものの、将来的に顧客に提供される可能性のある価値や革新的な機能を指します。これは、企業が持つ技術力やアイデア、研究開発の成果によって将来的に実現される「拡張された価値」の層であり、顧客がまだ意識していない潜在的ニーズに応える役割を持ちます。たとえば、スマートフォンであればAIアシスタントの高度化やAR機能の導入、次世代通信(6G)対応などが潜在価値の例です。ホテルであれば、パーソナライズされた滞在体験やIoTを活用した快適環境の自動調整などが挙げられます。潜在価値は、企業が競争優位性を持続させるための未来志向の要素と言えます。
潜在価値のポイントは顧客にまだ気づかれていない欲求を先取りする事です。MBAの観点では、製品戦略において潜在価値を考慮することで、単なる現状の差別化ではなく、将来の市場ニーズに先んじて対応できる企業の戦略的柔軟性を評価できます。新技術の導入やサービスの革新は、競合他社との差別化を持続させ、ブランドの先進性やイノベーション力を示す手段となります。
また潜在価値は長期的な顧客ロイヤルティやブランドの成長にも寄与します。顧客は、新しい価値や革新的な体験を提供されることで期待感を持ち続け、ブランドとの関係が深化します。そのため、企業は研究開発や市場予測、顧客行動の分析を通じて潜在価値の創出に取り組むことが重要です。潜在価値を意識した製品設計は、単なる短期的な売上向上ではなく、長期的な競争優位と持続可能な成長の基盤を構築することにつながります。
製品レベル5段階
以上が製品レベル5段階の詳細になります。これら五つの価値層—中核価値、基本価値、期待価値、膨張価値、潜在価値—を理解することで、単なる製品機能ではなく、顧客が求める価値全体を体系的に捉えられます。MBA学習においては、各レベルの違いを踏まえた差別化戦略やブランド価値創造の考え方を整理することが、実務やケース分析での思考力向上につながります。MBA受験に向けて上記をしっかりと理解しておくようにしましょう。