モチベーション理論入門②:MBA受験生のための過程理論を徹底解説

2025年11月04日

モチベーションの過程理論

モチベーションの過程理論とは「人はどのように動機付けられるのか。」を明らかにする理論です。過程理論の例として以下の二つの理論を紹介します。

1-1.Vroomの期待理論

 一つ目は「Vroomの期待理論」です。

 Vroomの期待理論は、人がどのようにしてやる気を持ち、行動を選択するのかを説明する理論です。この理論は、モチベーションを「結果を予測し、その結果に価値を見出す心理的な過程」として捉えています。すなわち、人は自分の行動が望ましい結果につながると信じるとき、より強い動機づけを感じるという考え方に基づいています。行動と成果、そして報酬の関係性を重視する点が特徴です。

 期待理論は「期待」「道具性」「報酬価値」という三つの要素から構成されています。まず「期待(Expectancy)」とは、「努力すれば成果を得られる」という信念の強さを指します。例えば、努力しても結果が出ない環境では、人は努力しようとしません。次に「道具性(Instrumentality)」は、「成果を出せば報酬が得られる」という確信の度合いを意味します。つまり、成果と報酬が明確に結びついていると、人は高いモチベーションを感じます。最後に「報酬価値(Valence)」は、報酬自体の魅力度を示します。同じ報酬でも、人によって価値の感じ方が異なるため、この要素も重要です。

 この三要素は掛け算の関係にあり、いずれか一つが低ければ全体のモチベーションも低くなります。例えば、どんなに魅力的な報酬があっても、その報酬を得るための成果が自分の努力では達成できないと感じれば、動機づけは生まれません。逆に、努力すれば成果が出て、成果を上げれば確実に報酬がもらえると信じている場合、非常に高いモチベーションを維持できます。この点からも、Vroomの理論は個人の主観的な認知や期待感を重視していることがわかります。

 Vroomの期待理論は、企業や組織のマネジメントにも広く応用されています。例えば、上司が部下に対して明確な目標を示し、その達成によってどのような評価や報酬が得られるかを具体的に伝えることが重要です。また、社員が自分の努力で成果を上げられると感じられるように、必要なスキルやサポートを提供することも欠かせません。このように、努力・成果・報酬の連鎖が明確になるほど、組織全体のモチベーションが高まり、生産性の向上にもつながります。

 現代の働き方においても、この理論は有効です。特にリモートワークや柔軟な労働環境が広がる中で、上司と部下の間で成果と報酬の関連が見えにくくなる傾向があります。したがって、評価制度を透明化し、成果に対して公平な報酬が与えられる仕組みを整えることが重要です。さらに、金銭的報酬だけでなく、自己成長や承認などの心理的報酬を含めた「報酬価値」を考慮することで、より多様な働き手のモチベーションを引き出すことができます。Vroomの期待理論は、こうした多様化する現代社会においても、人の内面に根ざしたモチベーションの理解に大きな示唆を与えています。

1-2.アダムスの公平理論

 二つ目は「アダムスの公平理論」です。

 アダムスの公平理論は、人が自分の働きや報酬を他者と比較して「公平かどうか」を感じ取る過程を説明する理論です。この理論は、1960年代にジョン・ステイシー・アダムスによって提唱されました。人は単に報酬の多寡だけで動機づけられるのではなく、他人とのバランスを基準に自分の状況を評価するという考え方に基づいています。つまり、人は「自分が他者と比べて正当に扱われている」と感じたときに、最も高いモチベーションを発揮します。

 この理論の中心には、インプット(投入)とアウトプット(成果)という二つの概念があります。インプットとは、個人が仕事や組織に提供する要素を指します。具体的には、努力、時間、経験、スキル、責任感、協調性などが含まれます。一方、アウトプットとは、その見返りとして得られる報酬のことです。給与や昇進、賞賛、地位、仕事のやりがいなどがそれに当たります。アダムスによれば、人は自分のインプットとアウトプットの比率を他者のそれと比較し、そこに「公平」または「不公平」を感じ取ります。

 もし自分のインプット・アウトプット比率が他者と同等だと感じれば、人は公平だと認識し満足感を得ます。しかし、もし自分の方が多く努力しているのに報酬が少ないと感じれば、不公平感が生じ、モチベーションは低下します。逆に、自分が他者よりも多くの報酬を得ている場合にも、人はある種の罪悪感を覚えることがあります。このように、人間は単なる結果よりも「相対的なバランス」を重視する存在であり、この認知的比較こそが行動や満足度を左右します。

 アダムスの公平理論は、組織運営や人事管理において非常に重要な示唆を与えます。企業が従業員のモチベーションを維持・向上させるためには、単に報酬の金額を上げるだけでなく、報酬体系や評価プロセスを「公平」と感じられるように設計することが求められます。たとえば、評価基準を明確にし、成果に見合った処遇が行われていることを社員が納得できるようにすることです。また、上司が部下に対して感謝や承認を伝えることも、心理的なアウトプットとして重要な役割を果たします。こうした取り組みが、公平感の形成に大きく影響します。

 更に現代の多様な職場環境では、この理論の意義が一層高まっています。働き方や価値観の多様化により、同じ報酬でも感じ方は人それぞれ異なります。したがって、企業は「一律の公平」ではなく、「納得できる公平」を追求する必要があります。個々の貢献度や役割の違いを踏まえた柔軟な評価制度や、オープンなフィードバック文化の構築が鍵となります。また、リモートワークなどで他者の働きぶりが見えにくい状況では、比較の基準が曖昧になり、不公平感が生じやすくなります。そのため、透明性の高いコミュニケーションが不可欠です。公平理論は、単なる報酬問題にとどまらず、組織文化全体の健全性を示す尺度でもあります。

モチベーションの過程理論

 以上がモチベーションの過程理論の詳細になります。モチベーションの過程理論は、人がどのような心理的過程を経てやる気を持つのかを説明する理論群です。Vroomの期待理論は「努力・成果・報酬」の連鎖に注目し、アダムスの公平理論は「他者との比較による公平感」に焦点を当てています。どちらも人間の主観的な認知を重視しており、単なる報酬の大きさではなく、その過程や感じ方が動機づけに影響することを示しています。組織や個人が高いモチベーションを維持するためには、成果が正当に評価され、公平で納得のいく報酬体系を整えることが重要です。MBA受験に向けて上記の理論はしっかりと理解した上で覚えておくようにしましょう。