PM理論とSL理論を徹底比較:リーダーシップ理論の本質を理解する

2025年11月06日

PM理論とSL理論

リーダーシップで有名な理論に「PM理論」「SL理論」があります。それぞれの詳細は次の通りです。

1-1.PM理論

     まず一つ目に「PM理論」があります。

     リーダーシップには型があります。人を導く方法は一つではなく、組織や文化によって求められるリーダー像は異なります。その中でも、日本の研究者が提唱したPM理論は、日本型組織の特徴をよく表す理論として知られています。成果と人間関係の両立を重視するこの理論は、単にリーダーの能力を評価するものではなく、チームの心理的安定と目標達成をどう調和させるかを示しています。MBAで学ぶ組織行動論やマネジメントの基礎としても頻出の理論です。

     PM理論は、社会心理学者の三隅二不二氏によって提唱されました。この理論は、リーダーシップ行動を「目標達成機能(Performance function)」と「集団維持機能(Maintenance function)」の二つに分けて考えます。目標達成機能は、チームの業績向上や課題解決のために、明確な指示を出し成果を追求する行動を指します。一方の集団維持機能は、メンバーの満足度や協調性を保ち、チームの人間関係を良好にする行動です。この二つの機能のバランスによって、リーダーのタイプが分類されます。

     具体的には、P(目標達成)とM(集団維持)の高低の組み合わせにより、四つのリーダータイプが定義されます。PとMの両方が高い「PM型」は理想的なリーダーとされ、成果とチームワークを両立できるタイプです。Pが高くMが低い「Pm型」は結果は出せるものの、部下との関係に問題を抱える傾向があります。逆にMが高くPが低い「pM型」は人間関係を重視しますが、成果が伴わない可能性があります。そしてPもMも低い「pm型」は、目標も人間関係も維持できず、最も効果の低いタイプとされます。このようにPM理論は、リーダーの行動を定量的に評価し、どのバランスが最も組織に適しているかを明らかにする理論です。

     PM理論が注目される理由の一つは、日本的な組織文化との親和性です。日本では、成果だけでなく、チームの調和や信頼関係を重視する傾向があります。リーダーが強いリーダーシップを発揮しても、周囲との関係を損なえば長期的な成果は得られません。逆に、人間関係を優先しすぎても、目標が曖昧になり組織の力が分散してしまいます。PM理論は、そうしたバランスの重要性を理論的に説明し、「成果を出すリーダーほど、集団の維持にも力を入れている」という視点を提供しました。その考え方は、企業経営だけでなく、教育、行政、非営利組織など幅広い分野にも応用されています。

     PM理論はまた、リーダーシップを学習可能なスキルとして捉える点でも重要です。リーダーの行動は生まれつきの性格ではなく、訓練や経験によって育成できるという考え方が前提にあります。例えば、Pが弱いリーダーには、明確な目標設定や業務管理の訓練が有効です。一方、Mが弱いリーダーには、コミュニケーション力やチームビルディングを高める教育が求められます。このように、PM理論はリーダー育成の実践的な指針としても活用されており、組織の中で持続的に成果を出すための基盤となっています。

    1-2.SL理論

       次に二つ目に「SL理論」があります。

       リーダーは状況に応じて変わります。どんなに優れたリーダーでも、同じスタイルで全ての部下を導けるわけではありません。組織の中では、メンバー一人ひとりの能力や意欲が異なり、求められる関わり方も変化します。こうした現実を理論的に整理したのが、アメリカの経営学者ハーシィとブランチャードによるSL理論です。この理論は、リーダーシップの正解は一つではなく、部下の成長段階に合わせて最適な行動を選ぶことが重要だと説いています。

        SL理論では、リーダーシップの有効性を、部下の成熟度という概念で説明します。成熟度とは、部下が仕事を遂行する能力と、その仕事に対する意欲や責任感の高さを指します。リーダーは部下の成熟度を見極め、状況に応じて自らの行動スタイルを変える必要があります。つまり、リーダーシップは固定的な性格ではなく、状況に応じて柔軟に変化させるスキルなのです。この考え方は、リーダーが常に学び、適応し続ける存在であることを前提としています。

       SL理論では、リーダーシップスタイルを四つに分類しています。第一に「指示型(Telling)」です。これは、部下の成熟度が低い段階で用いられるスタイルで、リーダーが明確な指示を出し、行動を具体的に導きます。第二に「説得型(Selling)」があります。部下に一定の意欲はあるものの、まだ十分な能力が備わっていない場合に適用され、リーダーは説明や励ましを通してモチベーションを高めます。第三に「参加型(Participating)」は、部下の能力が高まった段階で用いられ、リーダーが意思決定を共有しながら協働するスタイルです。最後の「委任型(Delegating)」は、成熟度の高い部下に対してリーダーが権限を委譲し、最小限の指導で成果を引き出す段階を指します。これら四つの型を柔軟に使い分けることが、SL理論の核となります。

       この理論の特徴は、リーダー自身の行動ではなく、部下の状態を中心に置いている点です。リーダーがどれほど優秀でも、部下の能力や意欲を正しく理解していなければ、効果的なリーダーシップは発揮できません。たとえば、経験の浅い部下に委任型で接すると、仕事を任せきりにして失敗するリスクがあります。逆に、能力の高い部下に細かく指示を出しすぎると、モチベーションを下げてしまう可能性があります。リーダーは、部下の現状を客観的に評価し、適切なサポートの度合いを見極める必要があります。SL理論は、リーダーの柔軟性と観察力を鍛える実践的な指針として、多くの企業研修や人材育成に応用されています。

       MBAでSL理論を学ぶ意義は、単に理論を暗記する事ではありません。むしろ、理論を自分のリーダー経験に照らして考えることが重要です。実際のマネジメントでは、メンバーの成熟度は一律ではなく、業務内容や環境によって変化します。そのため、リーダーは常に状況を分析し、適切なスタイルを選び直す力が求められます。SL理論は、リーダーシップを「状況に合わせて調整する能力」として定義しており、変化の激しいビジネス環境において非常に有効な考え方です。MBA受験生にとっては、理論を理解するだけでなく、実際にどう適用できるかを論理的に説明できるようにしておくことが大切です。

      PM理論とSL理論:まとめ

       以上がPM理論とSL理論の詳細になります。PM理論とSL理論は、いずれもリーダーシップを理解する上で欠かせない枠組みです。PM理論は、成果を重視する姿勢と人間関係を大切にする姿勢の両立を説き、組織の安定と成長を支える日本型リーダー像を示します。一方、SL理論は、部下の成熟度に応じてリーダーが行動を変えるという柔軟な考え方を提唱し、実践的なマネジメント手法として活用されています。MBA受験では、両理論を対比しながら理解することで、理想的なリーダー像を論理的かつ実践的に説明できるようになります。理論の知識を自らの経験に結びつけて考察することが、リーダーとしての成長につながります。MBA受験に向けて、両理論の特徴をしっかりと理解しておきましょう。