2025年05月06日
規模の経済
「規模の経済(Economies of Scale)」とは生産や販売の規模を拡大する事で一単位当たりの生産コストが低減することです。規模の経済が成立する理由は次の通りです。
1-1.固定費の分散
まず一点目に企業が製品を大量に生産する事で「固定費の分散」が可能になります。工場の建設費用や設備費用(減価償却費)などは生産量に関係なく常に一定額が固定費として発生しますが、裏を返すと生産量を拡大しても固定費は増加しないので、生産量を拡大する事で一単位当たりの固定費を下げる事が可能です。これにより一単位当たりのコストを下げる事が可能になります。
更に大量生産による固定費分散は規模の経済として企業の競争力を高める重要な要素となります。何故なら一単位当たりのコストが下がることで価格競争力(価格を下げる事)が向上するからです。また固定費の割合が高い製造業では設備投資などの固定費が大きいほど大量生産によるコストメリットが顕著になります。これは一単位当たりのコストを考えると当然だと言えます。これに加えて原材料の大量調達による仕入れコストの削減や製造工程の効率化も同時に進めることで、より低コストでの生産が可能となります。このように固定費を分散すれば結果として企業は価格競争だけでなく利益確保の面でも優位に立つことができます。
1-2.生産効率の向上
二点目に企業が製品を大量に生産することで「生産効率の向上」が可能になります。経験効果については詳しく別記事で解説しますが、経験効果により累積生産量が増加すると、一単位当たりのコストは低減します。そのため生産効率が向上し一単位当たりのコストは下がる事になります。多くの量をこなせば効率が高まり続けていくという事は生産に限らず何事でもそうですが、この論理はそのまま生産にも適用できます。また経験効果の影響は単なるコスト低減にとどまらず、製造プロセスの改善や作業の標準化など、さまざまな面にも効率化をもたらします。累積生産量が増えることで、従業員のスキルが向上し、ミスや不良品の発生率なども低下します。また作業方法も生産量の増加とともに改善されていきます。結果として一単位当たりの生産コストはさらに低下し、企業は価格競争力を維持しつつ利益率の改善も実現できます。このように大量生産による経験効果は単純な生産量の増加以上の価値を企業にもたらします。
1-3.大量購入による割引
三点目に企業が製品を大量に生産する事で「大量購入による割引」が可能になります。何故なら大量に購入すると、仕入先から見れば大きな売上が一度に上がる事になります。これにより取引に掛かる手間が減ります。また仕入先としても大量購入は有難いので、少し割り引いてもその取引をまとめようとします。つまり割引が成立するのです。これにより一単位当たりのコストは低減する事になります。更に大量購入による割引は、企業の調達戦略やサプライチェーン全体の効率化にもつながります。また原材料や部品をまとめて購入することで、仕入れの発注・検品・物流などの間接コストも削減できます。更にサプライヤーとの交渉力が強まることで、価格だけでなく納期や支払い条件などの優遇も得やすくなります。このように大量購入による割引は単なる単価低減にとどまらず、企業全体の競争力を高める要因となります。結果として一単位当たりのコスト低減と共に利益率の向上や市場での価格戦略の柔軟性が生まれる事になります。
1-4.技術・設備の向上
四点目に企業が製品を大量に生産する事で「技術・設備の向上」が可能になります。それにより一単位当たりのコストを削減する事が可能となります。例えば日本を代表する企業と中小零細企業とでは、技術や設備のレベルが異なるのは周知の事実です。しかしこれは生産する量によって支えられている側面があります。生産量が拡大すれば売上が大きくなり他の企業も注目する事になります。そうすれば多くの業者も集まってきます。これにより最新の設備や技術が導入しやすくなるのです。更に生産量の増加は技術開発や設備投資の効率化にも直結します。大量生産によって安定した収益が確保できるため、新しい製造技術や設備導入に力を入れる事ができるようになります。また大規模な生産は優秀な技術者や専門家を引き寄せる効果もありスキルの共有や製造プロセスの最適化が進む事に繋がります。更に生産設備の自動化や標準化も容易になり、一単位当たりのコスト削減がさらに加速します。このように生産量の拡大は技術力・設備力の向上に繋がりそれが企業の競争力強化に直結します。
1-5.流通コストの削減
五点目に企業が製品を大量に生産する事で「流通コストの削減」が可能になります。何故なら流通業者から見ても企業の大量子入は非常に有難い話であり、一社からの取引だと手配も集中してできるので手間が減ります。その結果として生産者は流通コストを減少させる事が可能になります。これにより一単位当たりの流通コストは下がる事になります。更に大量生産による流通コスト削減は単純な配送費の低減にとどまらず物流全体の効率化にもつながります。何故なら大量出荷は配送ルートの最適化や運搬効率の向上を可能にし、配送回数や燃料コストの削減にもつながるからです。また企業の流通業者に対する交渉力も高まり、配送スケジュールや保管条件も向上します。更に企業の大量取引により物流センターや倉庫の運用効率も改善されて在庫管理コストや保管コストも低減されます。結果として一単位当たりの流通コストは大幅に低下し企業全体のコスト構造の改善や利益率向上に直結します。このように大量生産は製造だけでなく流通や物流面でも規模の経済効果を生み出し、企業の競争優位性を高める重要な要因になります。
1-6.購買力・交渉力の強化
六点目に企業が製品を大量に生産する事で「購買力・交渉力の強化」が可能になります。大量生産の規模を拡大することで、企業は単に製造コストを下げるだけでなく、サプライチェーン全体における影響力も高めることができます。具体的には製品や部品の大量購入が可能になるため、サプライヤーとの価格交渉や支払条件などの交渉を有利に進めることができます。また大量の安定取引が見込めるため、サプライヤー側も効率的な生産体制や在庫管理を実現しやすくなり、その結果として企業全体の調達コスト削減につながります。更に購買力の強化は新規サプライヤーへの切り替えや代替材料の導入も容易にします。よって企業は供給リスクの低減を実現する事ができるようになります。こうした効果は単なるコスト削減に留まらずサプライチェーン全体の効率化や競争力強化にもつながります。つまり大量生産は購買・物流・調達において企業の優位性を高める重要な要素となります。
規模の経済:まとめ
企業が戦略を考える上で「規模の経済」を念頭に置いて考えるのは非常に重要です。何故なら規模の経済がコストアドバンテージを生み、それが結果的に企業の利益率を高めてくれるからです。この規模の経済という概念はMBA受験の際に小論文対策などでも問われる概念になりますので、規模の経済についてしっかりと理解しておくようにしましょう。そして戦略の策定を行う時は規模の経済によるコスト優位の概念を常に念頭に置くことを意識して下さい。