企業戦略入門|MBA受験生が押さえるべき「競争優位の源泉」

2025年05月07日

競争優位の源泉

競争優位とは企業が競合他社より有利な立場を築き高い収益を実現できている状態を言います。(競争優位については別記事「競争優位・競争均衡・競争劣位の違いとは?MBA入試に効く戦略思考」をご覧下さい。)そして「競争優位の源泉」というのは、企業がその競争優位を実現できている原因を指します。競争優位を実現する方法は大きく分けて二つの考え方があります。以下、それぞれの解説になります。

1-1.マイケル・E・ポーター氏によるポジショニング・アプローチ

 まず一つ目はマイケル・E・ポーター氏による「ポジショニング・アプローチ」になります。

 マイケル・E・ポーター氏はファイブフォース理論(「MBA受験に必須!マイケル・ポーターのファイブフォース分析を徹底解説」)や三つの競争戦略(「ポーターの競争戦略とは?MBAで必須の3つの基本戦略を徹底解説」)を通して、企業は自社の事業が立っているポジションにより優位性が決まると主張しました。実際にポジショニングに成功すれば競争優位を実現する事ができます。これがポーター氏の本質的な主張になります。

 マイケル・E・ポーター氏によるポジショニング・アプローチは、企業の競争優位を外部環境との関係性に基づいて考える点に特徴があります。ポーター氏は企業の競争環境を「ファイブフォース」で分析することで、どの事業領域でどのような戦略を取るべきかを提唱しました。ファイブフォースとは新規参入者の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、供給者の交渉力、競合他社との競争の五つになります。これら外部環境の力が強い場合は企業は利益を確保しにくくなるため、戦略的なポジショニングが不可欠となります。

 ポーター氏は競争優位の実現手段として「三つの基本戦略」を提唱しています。一点目は「コスト・リーダーシップ戦略」です。この戦略は効率的にコストを削減することで、価格競争において優位に立つ戦略です。二点目は「差別化戦略」です。競合他社には真似できない独自の製品やサービスを提供し、顧客が高い価値を感じることで競争優位を実現します。三つ目は「集中戦略」です。特定の市場セグメントに焦点を当て、その領域で優位性を実現する方法です。これらの戦略を通じて企業は市場における自社のポジションを明確化し、競合他社との比較で優位に立つことが可能になります。

 更にポーター氏のポジショニング・アプローチでは、競争優位は持続可能であることが重要とされています。何故なら一時的なコスト削減や強みの実現だけでは、競合他社が模倣すれば優位性が失われる事になります。このため企業は自社の競争優位を構築する際に、参入障壁を設けたり、ブランド力の強化や規模の経済性の実現など、模倣困難な内容を組み合わせることが重要になります。例えばある高級ブランドが価格だけでなくブランドイメージや顧客体験によって優位性を維持しているのはポジショニングの成功例であると言えます。

 このポジショニング・アプローチのメリットは外部環境を分析することで市場に応じた戦略が策定できる点になります。他方、デメリットとしては、企業内部の資源や能力を十分に考慮していない点があります。そのため、ポーター型戦略を実行する際は、自社の持つ経営資源や能力も同時に分析する必要があります。結果としてポジショニング・アプローチは「外から見た競争優位」を重視する分析手法であり、どの市場でどのように立ち回るかを戦略的に決定する上で非常に有効なフレームワークであると言えます。

1-2.ジェイ・B・バーニー氏によるリソース・ベースド・ビュー(RBV)

 次に二つ目はジェイ・B・バーニー氏による「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」になります。バーニー氏は企業が有する内部資源に注目し、特定の企業が持つ資源が競争優位を築く源泉となると主張しました。別記事も解説させて頂きますが、これはポーター氏のポジショニング・アプローチとは異なる主張になります。

 ジェイ・B・バーニー氏のリソース・ベースド・ビュー(RBV)は、競争優位を企業内部の資源・能力に求めるアプローチになります。ポーターのように外部環境によってではなく、企業が保有する特有の資源・能力がどのように競争優位を生むかに注目します。ここで言う資源とは、物的資源・人的資源・組織資源・無形資源など多岐に渡ります。

 RBVの重要な概念は、競争優位をもたらす資源は「価値がある(V)」「希少である(R)」「模倣困難である(I)」「組織が活用できる(O)」という「VRIOフレームワーク」で評価できるという点になります。(VRIOフレームワークの詳細については別記事で解説します。)例えば特許技術や独自のブランド力は希少で模倣困難な資源であり、組織内で活用すれば持続的競争優位の源泉になります。逆に汎用的な設備や模倣困難性の低い技術では、競争優位を維持することは困難です。

 RBVでは企業戦略は「どの資源を活かすか」「どの能力を強化するか」を考える事が重要になります。市場の外部環境が変化しても、企業内部に希少で模倣困難な資源があれば、競争優位は相対的に維持されやすいと言えます。例えば長年蓄積された顧客データや社内ノウハウは他社が簡単に模倣する事はできず、これを活用すれば競合に対する優位性を築く事ができます。また人材育成や組織文化の構築も長期的な競争優位の源泉としては重要であると言えます。

 一方でRBVは外部環境の変化を過小評価している点が弱みであると言えます。たとえ資源が優れていても市場の構造や顧客ニーズが劇的に変わると、優位性が失われることがあります。そのためバーニーの戦略を採用する場合は、内部資源の強みを意識して高めつつ、外部環境も意識することが求められます。結果としてRBVは「企業の内部から見た競争優位」の理論であり、企業が持つ独自資源を戦略的に組み合わせることで、持続可能な競争優位を築くフレームワークとして非常に有効です。

競争優位の源泉:まとめ

 両者の主張の違いの本質はポーター氏が「外部環境」に注目したのに対してバーニー氏が「内部資源」に注目した点になります。これはいずれか片方が正しいというものではなく、それぞれが補完し合う理論になります。そのためMBA受験時に競争優位について考える時は、また競合他社の競争優位の源泉を分析する時は、両者が主張した両方のコンセプトに基づいて分析するようにしましょう。