2025年05月15日
新興業界における三つの機会
新興業界は不確実性は高くても次の三つの機会を実現できる可能性があります。
1-1.技術リーダーシップ
一点目に新興業界の発展段階で特定の技術に対して投資する場合は「技術リーダーシップ」を実現できる可能性があります。
具体的には特定の技術を競合他社より早く確立する事により、累積生産量が他の企業より大きくなりコストアドバンテージを獲得する事ができます。早い段階で多くの量を生産すれば規模の経済や経験効果が実現できますよね。また更には特許を取得する事でその技術を守っていく事もできるので、新興業界は技術的な優位性を築きやすい状態であるとも言えます。よって新興業界は不確かな状態ではあっても、市場を獲得するには絶好の機会であると言えます。
更に新興業界では市場自体がまだ形成途中なので、業界内で製品・サービスの標準化が進んでおらず先行者利益を享受しやすいという特徴があります。先に技術を確立した企業は、自社の技術によって作り上げた製品・サービスを事実上の業界標準として定着させることが可能です。そうなると後発企業は模倣する際に追加コストや時間がかかるようになり、競争優位が確立されるようになります。また初期段階ではブランド認知や顧客が獲得しやすく、結果として市場シェアの拡大も容易になります。
また新興業界は技術進化が速いので高い技術力を身に付ければ企業の競争力の源泉になります。特定の技術に多くの投資をすることで、他社が容易に模倣できないノウハウや技術が蓄積され、中長期的に大きな差別化要因になります。加えて特許などの活用により、競合企業が同様の技術を利用する際に利用料を得ることも可能です。そのため技術力を身に付けた企業は単なる製品差別化だけではなく長期的にも優位性を実現できるのが新興業界の特徴になります。
1-2.資源の先制確保
二点目に新興業界の発展段階で「資源の先制確保」が実現できた場合も大きなアドバンテージになります。
新興業界では資源を先に確保すると後から同じ資源を同価格で入手する事が難しくなるからです。例えば特定の資源を採掘する権利を先に獲得すれば、後から参入してくる業者はその資源を採掘する事ができなくなります。また潜在顧客が多い特定の場所に店舗を構えて成功した場合、競合他社は同じ場所を確保できないと同じように成功する事は難しくなります。このように新興業界は先に重要な資源へのアクセスを獲得する事で後発企業に対する競争優位を実現する事ができます。
また先に資源を確保した企業は流通や販売面においても先行者利益を実現することができます。例えば人気立地の店舗スペースを先行確保することで、後発企業は同様の立地を獲得する事ができなくなり、立地競争で不利な状況に追い込まれます。また希少な原材料を先に獲得した企業は、取引先や顧客との関係性も先に構築できるため、供給面での優位性を確立することが可能です。この原材料を他社が獲得できないようにすれば尚更有利になります。このように資源の先制確保は、物理的な優位性にとどまらず、経営全体の優位性につながります。
更に資源の先制確保は新興業界において長期的な利益をもたらす効果があります。特に限られた資源や立地に関しては、後発企業が参入する際に追加コストを負担する必要があり、その差額が収益として先行企業に還元されます。また戦略的に重要な資源を押さえることにより、将来的な技術開発や製品差別化の源泉も確保する事ができるので、短期的な競争優位にとどまらず、中長期的に持続可能な収益源を築くことができると言えます。このように新興業界には資源を先制確保できる機会があり、これは持続的な競争優位性を築く上で極めて重要な要素であると言えます。
1-3.顧客のスイッチング・コスト
三点目に新興業界の発展段階で顧客を獲得できた企業は意図的に「顧客のスイッチング・コスト」を引き上げる事により先行者優位に立つ事ができます。
新興業界で先に顧客を獲得できれば契約内容次第でスイッチング・コストを引き上げる事ができます。例えば特定のアプリケーションソフトの使い方に慣れた顧客は、バージョンアップ時にも同じソフトを使う可能性が高くなります。何故なら再びゼロから別のソフトの使い方を学ぶのが手間だからです。同じく製薬業界では、一度でも特定の薬を満足して利用してくれる顧客が得られると、その顧客は信用という観点から同じ薬を長く使い続ける可能性が高いので、新しい薬に対する優位性を築く事ができるようになります。このように新興業界で先に顧客を獲得できれば、金銭面は勿論ですが手間や信用という観点からも顧客のスイッチング・コストが高まり、その分だけ競合他社に対して優位性を築く事ができるようになります。
また先行して顧客を獲得した企業は顧客データや使用履歴・クレームなどを活用する事で製品・サービスの改良やマーケティングの最適化を行う事が可能になります。更には新製品開発に活用できる情報が手に入るという優位性も得られます。例えばアプリケーションソフトであれば、ユーザーの利用方法・要望を反映させた改良版を作る事で、顧客の満足度を高めて他社製品への乗り換えを困難にする事ができます。また製薬業界でも、既存の患者データや利用実績を活かした研究や市場分析を行うことで、新薬開発や販売戦略で先行物として優位性を確保する事ができます。このように顧客を先に獲得する事でさまざまなメリットを享受することができるようになります。
次に企業が顧客と長期契約や解約コストを設定する事でスイッチング・コストを引き上げる事ができます。例えば企業が顧客に長期契約を提案した場合、その顧客は長期契約を前提に検討を重ねて契約するか否かを判断します。このように顧客が長期契約を結んだ場合、余程の事がない限りその期間は競合他社に切り替える事はありません。何故なら既に検討が終了し製品の納入やサービスの提供が始まっているからです。またその期間に解約すれば違約金が発生するような契約を結んでいた場合、顧客は違約金を支払う事で大きな不利益を被るので、その分を差し引いて競合他社にスイッチするメリットを考えるようになります。これによりスイッチするメリットを引き下げる事ができるので、長期契約を結んだ企業は有利になります。
更にスイッチング・コストの引き上げは業界全体のブランド価値の形成にもつながります。早期に獲得した顧客が周囲に自社の製品・サービスを推奨することで販売促進効果が生まれ、新規参入企業が顧客を獲得する難易度が格段と上がります。特に新興業界ではまだ主要なプレイヤーがいない分、顧客の信頼やブランドイメージが一度形成されると優位性が固定化されやすいので、結果として後発企業は高いコストや時間を投じないと市場参入が難しい状態になります。このように新興業界における顧客獲得によるスイッチング・コストの引き上げは、持続的な競争優位を確立する上で重要な要素であると言えます。
新興業界における三つの機会:まとめ
上記の通り新興業界は不確実ではあっても、魅力がある業界でもあります。将来的な予測が難しい分だけ新規参入は減りますが、その分だけ先に上記のような優位性を実現できれば、長期に渡って大きな利益を得続ける事が可能になります。これは例えばインターネットの出現期を考えれば容易にご理解頂けると思います。そのためMBA受験に向けて新興業界の特徴をしっかりと理解した上で企業戦略を組み立てていくようにしましょう。