2025年05月15日
衰退業界で生き残る戦略
衰退業界は売上規模が落ち続けている業界ですが、衰退業界で企業が生き残るには以下の二つの戦略があります。
1-1.市場リーダーシップ戦略
衰退業界で取るべき戦略として「市場リーダーシップ戦略」があります。
市場リーダーシップ戦略は衰退する市場の中でリーダーシップを目指す戦略になります。衰退市場でリーダーシップを実現する戦略とは業界内でトップを目指す戦略です。衰退業界では売上利益は落ち続けていきますが、業界そのものがなくならない場合は売上利益がゼロになる訳ではありません。そのためこの時期に競合他社の苦戦や撤退を横目に効率性の高いトップ企業として生き残った企業は、衰退が止まった時点で競合が少ない環境を享受する事ができるようになります。
市場リーダーシップ戦略をとる企業は規模の拡大だけではなく効率性と収益性を同時に追求する事が必要になります。衰退業界では新規投資や顧客拡大の機会は限られるので既存資源の活用やコスト削減が競争力の源泉となります。例えば生産工程の自動化や物流の効率化、固定費の縮小などを進めることで、競合よりも低コストで事業を継続できる体制を築くことが可能です。また残存する顧客に対しては、ブランド力やサービス品質を高めることで意図的に維持していく必要があります。更に競合他社の撤退時には顧客や人材を低コストで獲得できる機会でもあります。これにより市場全体が縮小してもシェア拡大が進み、収益性を守ることができるようになります。最終的に衰退の速度が緩やかになれば、脅威となる競合が減少し安定的に利益を確保できるポジションを享受できるようになります。このように市場リーダーシップ戦略は衰退業界においても長期的な生存と利益の確保を可能にする有効な選択肢であると言えます。
1-2.ニッチ戦略
次に「ニッチ戦略」があります。
ニッチ戦略は衰退する市場の中でニッチ市場に集中する戦略になります。たとえ業界が衰退していても、特定のセグメントに集中し、その中でリーダーシップを発揮できた企業は、その中で有利な立場に立つ事ができます。そのため衰退が始まれば特定のニッチに集中し生き残りを目指すのも一つの立派な戦略になります。
ニッチ戦略を採用する場合に重要なのは独自の価値を発揮するという事になります。衰退業界では顧客数が減少傾向になりますが、残された顧客は価格よりも品質や専門性の高さを重視する傾向があります。よって企業は自社が強みを持つ分野に特化し、競合他社が容易に模倣できない商品・サービスを提供することで、安定した需要を確保する事ができるようになります。例えば一般市場では縮小しているアナログ製品であっても、特定の層からは根強い需要があります。このように市場で唯一無二の存在となれば、価格競争に巻き込まれず高い収益性を維持することが可能です。またニッチに集中すれば顧客との関係性が深まりブランドロイヤルティを築きやすくなる点も強みであると言えます。更に業界全体が縮小している中でのニッチ戦略は経営の効率性を高める効果もあります。結果としてニッチ市場に集中すれば衰退市場でも安定的に利益を上げることができます。
衰退業界から撤退する戦略
衰退業界から撤退する戦略としては以下の二つの戦略があります。
2-1.収穫戦略
衰退業界から撤退する戦略として「収穫戦略」があります。
収穫戦略は長期的にその業界から撤退する戦略になります。その前に規模を縮小したり利益のない特定のセグメントを切り捨てて、衰退前に得られる利益をしっかりと確保する戦略になります。そのためこの戦略を実施するには標準的なパフォーマンスが発揮できている事が前提条件となります。最後は撤退か売却するのがこの戦略です。
収穫戦略の実行には収益の最大化と撤退の最適化が重要になります。投資を削減する一方で既存の資産やブランドを活用して安定的に利益を確保し、撤退に向けた資金を蓄積する必要があります。よって広告費や開発費といった成長投資は抑えられ維持管理に必要なコストだけを残す運営に移行します。また収益性の低い事業領域や顧客層は早期に切り捨てて限られた資源を収益が見込める分野に集中させることが不可欠になります。更に収穫戦略を成功させるためには出口戦略の計画を練る必要もあります。競合他社への売却によるキャッシュの確保、または段階的な撤退によるリスク分散など、出口戦略の計画が収穫戦略全体の結果を大きく左右します。つまり収穫戦略とは単なる縮小ではなく、企業の将来に向けた戦略的な撤退であると言えます。
2-2.撤退戦略
次に「撤退戦略」があります。
撤退戦略は文字通りその業界から撤退する戦略になります。撤退戦略と収穫戦略との違いは衰退の兆候が見られた時期にすぐに撤退するという点が異なります。特に赤字である場合は撤退を伸ばせば損失が膨らむだけなので、迅速に撤退する事が重要になります。この戦略は決して後ろ向きな戦略ではなく、むしろ早々に赤字事業から撤退する事で、自社が強い事業分野に集中することができるようになります。そのため大企業の全社戦略としても非常に合理的な戦略になります。
撤退戦略で最も重要なのは撤退のタイミングになります。市場が縮小し始めた時点で、もしくは赤字改善の見込みがないと判断した時点で、迅速に撤退を決断することが企業を守る行動になります。特に大企業においては多角化戦略で複数の事業を抱えていることが多いので、採算の取れない事業から早急に撤退することで、成長分野や新規事業を強化することができます。また撤退は長期的に見れば企業価値を高める合理的な意思決定であると言えます。また撤退を急ぐ場合でも、事業売却や事業譲渡といった方法で他社に事業を引き継がせる事で、雇用を守り既存顧客の損害を最小限に抑える事も可能になります。結果として撤退戦略により経営資源の集中が進み、企業は競争優位を維持しながら持続的成長を実現する事ができます。そのため撤退戦略は決して企業の価値を下げる戦略ではなく企業の価値を高める戦略であると言えます。
衰退業界の戦略:まとめ
上記の通り衰退業界(業界の衰退期)は幾つかの戦略を実行する事で充分プラスに転じていく事が可能です。しかし最も悪いケースは、衰退を受け入れず(もしくはそれに気付かず)成熟期と同じ戦略を取ってしまうケースです。これにより企業は巨大な損失を被ることになってしまうので(倒産する企業が多いのもこの時期です。)、MBA受験に向けて衰退業界の特徴をしっかりと理解しておくようにしましょう。