2025年05月24日
明示的談合と暗黙的談合
競合他社と談合関係を結ぶ事ができれば破滅的競争を回避する事ができます。そのため企業にとって競合他社と談合関係を結ぶのは魅力的な戦略ですが、談合には次の二種類があります。
1-1.明示的談合
「明示的談合」受験には競合他社と直接対話や交渉を行い談合関係を成立させる事です。
明示的談合は多くの国で法律で禁じられています。(独占禁止法違反)何故なら明示的談合が行われるようになると産業が発展しないので、最終的にはその国の不利益になるからです。更に言えば、そもそも談合による利益は顧客の損失の上に成立するものなので、これを法律で禁じるのは当然だという考え方もできます。例えばホテル業界で談合が行われたとします。近隣にあるホテルがどの業者も同じような価格・サービスを提供しているのであれば、顧客はその中から宿泊するホテルを選択するしかありません。結果としてホテル業界は企業努力をすることなく高い価格を顧客に押し付ける事ができます。しかしこんな事を許可していては、ホテル業界は一切発展しませんし、顧客もホテル宿泊を避けるようになるでしょう。結果としてホテル産業は衰退し、良いサービスは生まれない事になります。こうなると資本主義の本質である自由競争による経済発展という概念すら成立しなくなります。そのため明示的談合は違法である事が一般的です。
更にMBAで学ぶ視点から考えると、明示的談合は企業戦略として短期的に利益を生み出す可能性がありますが、長期的な企業価値の向上には逆効果であると言えます。談合に依存するようになると、企業は市場でのイノベーションや効率化の必要性を感じなくなり、それは結果として競争力の低下を招きます。株主価値やブランド価値の観点からも、法的リスクと評判リスクは無視できないものになります。例えば欧米では談合に関与した企業に対して巨額の罰金が科されて経営陣が個人的に刑事責任を問われるケースもあります。このようなリスクを考慮すると明示的談合は長期的戦略としては不適切であると言えます。
また情報技術の発展に伴い明示的談合は発覚しやすくなっています。現代のグローバル市場では情報技術の発展により、市場データや価格情報はすぐに拡散されます。そのため談合の監視や摘発が以前よりも容易になっており、明示的談合が成功する可能性は低下し続けています。MBA受験生としては、この視点からも市場競争の健全性を維持するために、法律や倫理に基づいた戦略的意思決定の重要性を理解することが求められています。
更に明示的談合の分析は企業経営や戦略策定の力を磨く方法としても価値があると言えます。企業は短期的な利益だけでなく、長期的な持続可能性を意識して戦略を策定する必要があります。明示的談合に頼ると法的なリスクだけでなく、業界全体がイノベーションを行う機会を失うので経営判断としては極めて危険であると言えます。MBAの授業で学ぶゲーム理論や戦略論の視点からも、非協力的な環境における競合他社との談合関係を築く事は、競争と規制のバランスを考えるのに適したケーススタディとなります。また法規制や社会的倫理を無視した戦略は、一時的には利益を生むかもしれませんが、長期的な企業価値の維持やブランド力の強化には逆効果になります。MBA受験生はこうした事例を通じて、法律や倫理を守りながら持続的競争力を高める戦略策定の重要性を学ぶことができます。
1-2.暗黙的談合
「暗黙的談合」とは直接対話や交渉を行う事なく競合他社に何らかのシグナルを送り、価格を下げない意図や同じ場所で戦わない意図を暗黙的に伝える事を言います。
市場で競争する企業にとっては、社会全体や顧客にとっては不利益であっても、競合他社と談合関係を結ぶのは魅力的な行為です。そのため法律に接触しないように企業はこの「暗黙的談合」を行うようになります。暗黙的談合を成立させるには多くの方法がありますが、競争しているように見えて実は業界全体が一社の独占企業のように動いているケース、つまり暗黙的談合だと考えられるケースは実際にあります。例えば携帯電話業界では大手通信キャリア三社はどの会社も同じような価格設定・機種の分割払い方式を採用しており、数年間で少しの期間だけ違約金なしで乗り換えができる方式を採っていますが、結局は同じ業界内で顧客を回しているだけで顧客目線で見れば大きな競争は行われていない事になります。これが暗黙的談合になります。
暗黙的談合は法律に触れない範囲で競合企業同士が利益を最大化する戦略として機能しますが市場の競争原理は弱くなります。MBAで学ぶ視点から言えば、暗黙的談合は企業の戦略的意思決定の一例として興味深い対象であると言えます。企業は競争を避けつつ、収益を安定化させるために微妙なシグナルを送り合い、市場全体で価格や提供サービスを均衡させます。しかし、これにより顧客は自由な選択肢を持てなくなり消費者余剰が減少します。結果として市場は競争しているように見えても実質的には競争が制限された状態になります。
暗黙的談合は明示的談合と異なり法的なリスクが低いとされていますが、完全にリスクがないとは言えません。近年では各国の公正取引委員会や当局が、価格や契約内容の類似性、業界内の情報交換パターンなどから暗黙的談合の可能性を監視しており、必要に応じて調査や指導を行うケースがあります。MBA受験生としては、このような市場の均衡状態を理解することは、企業戦略やリスクマネジメントの観点から非常に重要であると言えます。
また暗黙的談合は業界構造や市場によって成立しやすさが異なります。参入障壁が高く企業数が限られている市場では、企業同士が互いの行動を観察しやすいので暗黙的談合が成立しやすい傾向があります。一方で、新規参入者が多い市場や急速に技術革新が進むような業界では、暗黙的談合を維持する事は難しく、企業は常に戦略の柔軟性を求められます。MBAで学ぶゲーム理論や競争戦略のコンセプトを使えば、こうした状況下で企業がどのように暗黙的協調を試みるか、またどのタイミングで競争を再開するかといった戦略的意思決定を分析することが可能になります。
更に暗黙的談合が行われた場合の消費者や社会全体に与える影響も考慮する必要があります。暗黙的談合が常態化すると、価格は高止まりしサービス改善のインセンティブも低下します。携帯電話業界の例のように顧客は一見自由に選択しているようでも、実質的には企業間で価格やサービス内容が均衡しているため、消費者は利益を享受する事ができなくなります。MBAで学ぶマーケティングや経営戦略論の視点からは、こうした市場の非効率性をどのように改善するか、競争を活性化する政策や企業戦略は何かといった議論につなげることもできます。
最後に暗黙的談合を理解する事は企業経営者や戦略策定を行う人にとり、合法的な範囲内で競合企業と協調する事を考える上で役に立ちます。MBA受験生がこのテーマを学ぶことで、法律や倫理を守りながら業界構造や市場動向を的確に読み取り、持続的に利益を生む戦略を立案する力を養うことができます。暗黙的談合の分析は単なる経営理論ではなく、現実のビジネス戦略やリスクマネジメントの実践にも直結する学びであると言えます。
明示的談合と暗黙的談合:まとめ
以上が明示的談合と暗黙的談合の説明になります。基本的にどの企業も破滅的競争は避けたいので、談合を行う強い動機があります。しかし一般的に明示的談合は違法となるので、それを避けて暗黙的な談合関係を結ぼうとします。しかしこれは顧客や社会から見ると決していい状態であるとは言えません。そのため業界分析を行う場合は、暗黙的談合が行われているかどうかを意識するようにして下さい。