多角化戦略の種類と具体例を解説|MBA受験生が押さえるべき経営戦略の基礎

2025年06月17日

多角化戦略の種類

多角化戦略には次の四つの種類があります。詳細はそれぞれ以下の通りです。

1-1.水平型多角化戦略

 一点目は「水平型多角化戦略になります。

 水平型多角化戦略とは現在と同じ顧客に向けて別の製品を提供する戦略です。例えば飲料メーカーが現在の顧客セグメントに別の飲料を開発し提供するケースなどが挙げられます。水平型多角化戦略は既存の顧客基盤や販路などがそのまま利用できるのが特徴になります。よって比較的成功しやすいのもこの戦略の特徴になります。

 水平型多角化戦略は比較的リスクが低いと言えますが競合との差別化が重要になります。既存顧客のニーズを満たす新商品であれば受け入れられやすいですが、単に品揃えを増やすだけだと模倣されやすく、競争優位の確立は難しくなります。そのため自社の強みと顧客ニーズを掛け合わせた独自性の高い商品・サービス開発が求められます。例えば飲料メーカーであれば、単に別の飲料を出すだけでなく、自社の強みを生かして「健康志向」「環境配慮」「ダイエット効果」といった新しい価値を提供することで、水平型多角化戦略が持続的な成長につながります。

 また水平型多角化戦略はブランド拡張との相性が良いと言えます。顧客にとって馴染みのあるブランド名のもとで商品を展開することで、顧客の購入時の心理的なハードルを下げることができます。逆に既存ブランドと新商品のイメージが乖離している場合は、ブランド価値の毀損につながるリスクがあるため、慎重な検討が必要になります。

 水平型多角化戦略はシナジー効果を発揮しやすいと言えます。既存の販売チャネル・広告媒体・研究開発のノウハウなどを利用できるので経済的合理性が高いと言えます。ただし組織内部の調整や新商品の投入による既存商品への影響にも注意が必要です。既存製品の売上を奪ってしまうと、企業全体の収益性が下がる可能性もあるため、ポートフォリオ全体での最適化が求められます。

 このように水平型多角化戦略は戦略設計が重要になります。MBA受験生にとっては、事例研究を通じて「なぜある企業は成功し、別の企業は失敗したのか」を分析できるようになる事が重要であると言えます。

1-2.垂直型多角化戦略

 二点目は「垂直型多角化戦略になります。

 垂直型多角化戦略とはサプライチェーン上の川上又は川下に進出する戦略です。例えば製造メーカーが原材料を製造する事業を始めたり、小売店まで流通する問屋を始めるケースが挙げられます。これにより調達・流通コストの削減や調達・流通ルートの安定性向上を実現することができます。

 垂直型多角化戦略はサプライチェーンの統合を通して効率性や収益性を高められる点が大きな魅力です。川上に進出すれば原材料の安定供給を確保できるようになり価格変動リスクを低減する事ができます。例えば自動車メーカーが鉄鋼やアルミ素材の製造部門を統合することで、調達コストの削減や品質のコントロールが容易になります。一方で川下に進出する場合は、販売チャネルを自社で握ることで顧客との接点を強化し、利益率の向上やエンドユーザーからのフィードバック獲得による改善効果が期待できます。代表的な例としては、アパレルメーカーが自社ブランドの直営店やECサイトなどを展開するケースが挙げられます。

 しかし垂直型多角化戦略は水平型多角化戦略に比べてリスクが大きい戦略であると言えます。まず異なる事業領域を統合するので管理が難しくなり組織運営の難易度が高くなります。また需要変動によって在庫リスクを抱えやすくなり、資本効率が低下する恐れもあります。特に川上への進出は初期投資額が大きくなる傾向があり参入障壁の高さがデメリットとなります。更に専門性の異なる事業を同時にマネジメントする必要があるので、企業の経営資源が分散しやすい点にも注意が必要であると言えます。

 垂直型多角化はMBAの学習では取引コスト理論やバリューチェーン分析などと関連づけて理解されます。外部取引のコストを削減し、自社内に取り込むことで効率化を図るという考えです。ただし内製化の比率を高めれば必ずしも効率が向上するとは限らず、規模の経済が働かない場合や市場環境が変化した場合は、逆に固定費の増大や柔軟性の欠如をという結果をもたらす可能性があります。そのため垂直統合の範囲をどこまで拡大するかという判断が経営上の重要な論点になります。MBA受験生にとっては、垂直型多角化をコスト削減や安定性確保といったプラスの側面からだけはなく、組織運営上の複雑性や資源配分の難しさといったマイナスの側面からも分析できるようになる必要があります。特にこれらは成功事例と失敗事例を比較することで、特定の状況で取るべき戦略とそうではない戦略を具体的に理解する事ができるようになります。

1-3.集中型多角化戦略

 三点目は「集中型多角化戦略になります。

 集中型多角化戦略とは現在の技術やマーケット・顧客などに関連する分野に進出する戦略です。関連多角化とも言います。この戦略のメリットはシナジー効果が得やすくノウハウの共有などが容易である点が挙げられます。また既存の事業に関連する分野に参入するので、水平型多角化戦略と同じく、比較的成功しやすい戦略であるとも言えます。

 集中型多角化戦略は自社が既に強みを持つ領域に隣接する市場や事業に進出するのでリスクが小さい戦略になります。よって成長を図れる戦略として多くの企業に採用されています。例えば、自動車メーカーが電気自動車用バッテリー事業に進出するケースや、IT企業が既存のソフトウェア開発力を活かしてクラウドサービスを展開するケースなどが挙げられます。これらのようなケースは既存の技術やノウハウを応用しやすく、研究開発費や人材育成コストを削減できるという大きな特徴があります。

 また集中型多角化戦略はシナジー効果を創出しやすいという特徴があります。生産設備・販売チャネル・ブランド力などを複数の事業で共有できるので、資源の有効活用が可能です。たとえば食品メーカーが健康食品やサプリメント市場に進出する場合、既存の製造技術や流通網を活かすことで効率的に事業を展開することができます。更に既存顧客の信頼を背景に新製品を導入できるので、市場浸透のスピードも速くなる傾向があります。

 しかし集中型多角化戦略にも課題があります。関連性があるとはいえ、新分野には固有の競争環境や市場環境が存在します。そのため安易に関連性があるから成功しやすいと考えると失敗につながる可能性が高くなります。またシナジー効果を狙いすぎるあまり、事業ポートフォリオが過度に一方向に偏ると、市場環境が変化した際にリスクが集中してしまう点にも注意が必要だと言えます。MBAでは集中型多角化は「コア・コンピタンス論」や「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」と関連づけて理解されます。自社の持つ強み(技術、人材、ブランドなど)をどの領域に展開すれば競争優位を維持できるかという視点が重要になります。MBA受験生にとっては、シナジー効果や関連分野への適用可能性を正しく判断できる力を持つことが重要であると言えます。

1-4.集成型多角化戦略

 四点目は「集成型多角化戦略になります。

 集成型多角化戦略とは既存の事業と全く関連性のない異業種に参入する戦略です。コングロマリット型多角化とも言います。異なる市場に参入するので、成功すればリスク分散効果は高くなりますが、既存の事業が活用できないので成功させるのが最も困難な戦略であると言えます。

 集成型多角化戦略は既存の事業と直接的に関係のない新分野に進出する戦略です。例えば電機メーカーが金融業に進出したり、建設会社が飲食業を始めたりするケースが該当します。この戦略は市場や技術・人材といった既存資源を活かしにくいというデメリットがありますが、異なる分野に参入することで景気変動や業界固有のリスクを分散できるというメリットもあります。特に不況時に業績が相互補完的に働くようなポートフォリオを構築できれば、企業全体の安定性を高めることができます。

 しかし集成型多角化戦略は最も成功させるのが難しい戦略です。何故なら企業は新しい市場や技術に関する知識・経験が不足しているので、新分野で競合優位を築くまでに多大な時間と投資が必要となるからです。また既存の企業文化や組織能力がそのまま通用しない場合も多く、異なる事業間での調整コストやシナジーの欠如といった課題が発生しやすいのです。加えて経営資源が分散すると、本業の競争力を低下させるリスクもあります。実際に多角化による失敗事例の多くは、この非関連分野への進出に起因しています。

 MBAでの学習では集成型多角化戦略はポートフォリオ・マネジメントといった概念と関連して議論されます。市場は非関連分野に手を広げた企業を必ずしも高く評価せず、むしろ「経営効率が低下するのではないか」と懸念する場合が多いのです。これは非関連分野に手を広げて倒産した多くの企業がある事に起因します。そのため成功には明確なシナジーの創出やM&Aによる経営資源の獲得・優れたマネジメント能力などが不可欠であると言えます。MBA受験生にとっては集成型多角化戦略を「リスク分散効果」と「実現の難しさ」という両面から理解し、なぜ一部のコングロマリット企業は成功し、多くの企業が撤退を余儀なくされたのかを分析できることが重要になると言えます。

多角化戦略の種類:まとめ

 上記の通り多角化戦略には幾つかの種類があります。多角化戦略を考えるのは企業戦略の常ですが、それぞれの特徴をしっかりと理解した上で、企業の多角化戦略を分析できるようになりましょう。そしてそれぞれのメリット・デメリットをしっかりと理解した上で自分の主張ができるようになりましょう。