業界内の壁とは?戦略グループと移動障壁をMBA受験生向けに解説

2025年05月13日

戦略グループと移動障壁とは?

基本的にどの業界も「戦略グループ」「移動障壁」があります。これらの詳細は次の通りです。

1-1.戦略グループ

 同じ業界内で他の企業とは異なり共通の動きを取っているグループを「戦略グループ」と言います。

 戦略グループの例を挙げると、例えば自動車業界の高級車市場・大衆車市場・電気自動車市場はそれぞれ異なります。また航空業界でもフルサービスの市場もあれば、LCCのようなローコストの市場もあります。一部には複数の戦略グループに属している企業もありますが、一般的には同じ業界であっても別のグループに属しているのが普通です。また戦略グループが異なると戦略は全く異なるものになります。

 戦略グループは同じ業界内でも戦略が異なる事を示す概念になります。業界全体を見ると同じ市場に属していても、企業ごとのターゲット市場や競争の方法・提供する価値が大きく異なります。例えば上記の通り自動車業界を例にすると、高級車市場・大衆車市場・電気自動車市場といった明確なグループが存在します。これらのグループは消費者ニーズ・製造コスト・販売チャネル・ブランド戦略などが大きく異なります。このためたとえ同じ自動車業界に属していても、高級車メーカーと大衆車メーカーでは戦略上の意思決定や使用する経営資源は全く異なります。

 航空業界も同様の構造を有しています。フルサービスのキャリアは、空港ラウンジやマイレージサービス・付加価値の高いサービス提供を通じて顧客満足を重視します。しかしローコストキャリア(LCC)は運航コストの徹底的な削減と座席単価の低減に力を入れます。このように同じ業界内でも戦略グループが異なると、コスト構造・収益構造・サービス提供方法などが根本的に異なり、企業同士の競争の方法も変わります。

 戦略グループの存在は企業や業界の分析で重要な意味があります。一般的には同じ戦略グループ内の企業同士の競争は激しく、製品やサービスが似通っているため、価格や差別化が比較されやすいと言えます。逆に異なる戦略グループに属する企業同士は、ターゲット市場や戦略が異なるため、直接的な競争は少なくなります。例えば、上記の通り高級車メーカーと大衆車メーカーは同じ自動車業界に属していても、製造資源や販売チャネル・ブランド価値が異なるため、特に競合として意識する必要はなくなります。

 更に戦略グループの概念は、業界の構造分析や競争環境の理解にも役立ちます。業界内で企業が別の戦略グループに移動することが難しい場合、すなわち戦略グループ間の移動障壁が高い場合は、企業は簡単に別のグループに移動できません。後述しますが、移動障壁には、ブランド力や顧客関係、技術力、組織文化、資本投下の規模などが含まれます。たとえば、LCCがフルサービスキャリアに転換すると仮定した場合、単に座席数を増やすだけでは不十分であり、ラウンジサービスや国際的なネットワーク構築、顧客ロイヤルティプログラムの導入など、全体の戦略構造を変える必要があります。このような移動障壁の存在により、戦略グループは業界内の安定したグループとして維持されることが多く、競合他社は模倣することが難しくなります。

 戦略グループの分析はMBA受験生にとっても重要な概念になります。何故なら同じ業界でも企業がどのように差別化戦略やコスト戦略を選択しているかを理解することは、競争優位の源泉を理解する上で不可欠だからです。また後述する戦略グループ間の移動障壁を理解することで、企業が戦略変更を行う際の困難さや業界構造の安定性を認識することが可能です。また戦略グループの分析は投資判断や経営コンサルティングにも役立ちます。同じ業界内でも異なるグループに属する企業は収益性や戦略が大きく異なるので、戦略グループを意識して分析することで、企業の競争力をより正確に評価する事ができるようになります。MBAの学習では、業界内の複数の戦略グループを比較し、各グループの戦略パターン・資源配分・移動障壁を分析することで、実務的な戦略思考力を身に付ける事ができます。

 以上のように戦略グループの概念は業界分析の基本的な枠組みとして非常に重要です。同じ業界内であっても企業の属するグループが異なることで戦略や成果が大きく異なることを理解することは、MBA受験生にとって必須の知識と言えます。

1-2.移動障壁

 「移動障壁」とは同じ業界内で別の戦略グループに移動する障壁の事を言います。

 例えば自動車市場で大衆車メーカーが高級車を製造する場合はこれに該当します。同じ自動車業界内であっても全く異なる戦略が必要になるので、それには参入障壁と同じような移動障壁(戦略グループを移動する障壁)を乗り越える必要があります。移動障壁は参入障壁と同じような概念が適用されます。例えば、規模の経済、製品差別化、その他のコスト優位、意図的抑止などがあります。このような概念により戦略グループを移動するのは容易ではなく、また戦略グループとしても意図的に移動障壁を作り上げる事で同業界内からの参入を防ぐ事ができるようになります。

 移動障壁は戦略グループ間の競争構造を理解する上では極めて重要な概念になります。移動障壁が高い場合は同じ業界内であっても企業は容易に別の戦略グループに移動することができず、戦略の変更や新市場への参入が難しくなります。これは新規参入障壁と似た概念ですが、同じ業界内で発生する点が異なります。既存企業はすでに自社の戦略グループに最適化された資源やプロセス、組織文化を構築しているため、別のグループに移動する際にはこれらを変える必要があります。そのため戦略グループの移動は通常、多くの点で非常に大きな困難を伴います。

 具体例として上記と同じ自動車業界を考えてみましょう。大衆車を製造している企業が高級車市場に参入する場合は単に製品を変えるだけでは十分ではありません。高級車市場ではブランド価値・デザイン・販売チャネル、アフターサービスの水準などが全く異なり、これらを同時に用意する必要があります。また高級車市場の顧客は高い品質とサービスを要求するので、従業員のスキルなども高める必要があります。こうした変更は大規模な投資が必要になるだけでなく、既存の大衆車事業との間で内部的な問題や組織のトラブルを生む可能性があります。このような問題の発生も移動障壁として機能します。

 移動障壁は参入障壁と同様にいくつかの要因によって形成されます。まず規模の経済が挙げられます。既存の戦略グループで規模の経済を実現している企業は、生産効率が最適化されており、新しい戦略グループで同等の規模を達成するには時間と資本が必要です。次に製品差別化が挙げられます。既存企業は特定の戦略グループ内で製品に独自性を持たせており、別のグループに移動する際には、新たな差別化を実現する必要があります。更にその他のコスト優位も重要になります。既に既存事業に合わせて生産コストや物流ルートなどが最適化されている場合は、別グループに移行するのにこれらを再構築する必要性が生じます。また意図的抑止として、既存企業が戦略グループ間の移動を防ぐために価格設定や販売戦略を変更して参入を阻止することもあります。例えば既存の高級車メーカーが意図的に特定市場における価格競争を強化する(安くする)ことで、新規参入者が利益を出す事を難しくすることがなど考えられます。

 また移動障壁は組織文化や人材の特徴・社内の仕組みのうな社会的複雑性も関係してきます。戦略グループごとの組織文化や意思決定のスタイルは、企業の長年の経験や内部の経験の蓄積によって形成されており、外部から模倣することは困難だと言えます。例えば大衆車市場向けの大量生産組織と、高級車市場向けの高付加価値組織では、品質管理の水準や顧客対応のプロセスなどが大きく異なります。このため単に設備や技術を模倣しただけでは、期待する成果を上げることは難しいと言えます。

 戦略グループと移動障壁の両方を理解する事はMBA受験生にとって重要であると言えます。業界分析や企業戦略の試験問題では企業の競争優位や戦略選択の理由を問われることが多く、戦略グループ間の移動障壁の存在から、なぜ企業が特定の戦略を維持するのか、あるいは新市場参入が難しいかを経営理論で説明することが可能になります。また移動障壁を意識することで競争戦略を立案する時の制約条件や戦略変更に伴うリスクも理解する事ができます。戦略グループと移動障壁を理解することで、MBA受験生は業界内の競争構造を正確に把握し、企業の戦略選択の理由や制約を経営理論で説明できるようになります。またこれらの知識は将来的に経営戦略を策定する時やコンサルティングを行う時においても重要スキルとなります。

戦略グループと移動障壁とは?:まとめ

 業界という概念を考える時によく業界内外での参入障壁や業界ごとの違いが話題となります。しかし同じ業界と言っても戦略グループが異なれば異なる業界のように機能し、それぞれに移動障壁が伴います。そのためMBA受験に向けて業界の中をしっかり分析できるよう、戦略グループと移動障壁について理解するようにしましょう。