コアなし業界とは?MBA受験生が知るべき成立条件と特徴を徹底解説

2025年05月21日

コアなし業界とは?

「コアなし業界」とは売り手と買い手の双方が最高の条件だと思える取引が永遠に成立しない業界の事を言います。このような業界が成立する条件は以下の通りです。

1-1.大きな単位でしか生産能力の追加が行われない。

 一つ目は「大きな単位でしか生産能力の追加が行われない。」という条件になります。 

 大きな単位でしか生産能力の追加が行われない業界例としては航空業界が挙げられます。航空業界では需要が膨らんでも一席だけ・二席だけと供給を増やす事はできません。何故なら供給量を増やすには最低でも飛行機一台は増加させる必要があるからです。飛行機を半分だけ追加などできませんよね。ただし飛行機一台を増やしたとしても、その一台分全ての需要が増えるとは限りません。その場合は空席分の損失が発生するので航空会社も容易に飛行機の数を増やす事ができません。また仮に飛行機の数を増加しても、需要が縮小すれば、空席が増えるので値下げする事になります。このように大きな単位でしか生産能力の追加が行われない場合は双方が最高の条件を整えるのが難しくなります。

 このように供給の最小単位が大きい業界は需要と供給の微調整が難しいのでコアなし業界と呼ばれます。コアなし業界では限界費用(供給を一単位増やすのに必要なコスト)と平均費用の乖離が大きいので需要が一部だけ増加しても企業が柔軟に対応する事ができません。航空業界のように固定費の比率が高い業界では、空席や未稼働の機体が直接的な損失に結びつきやすいので、供給を増加する時は慎重な判断が求められます。更に価格競争が激化しやすい点も重要な特徴であると言えます。需要が減少すれば過剰な供給能力を抱えた企業が値下げを迫られることになり、それが業界全体の収益性を引き下げる可能性があります。このような状況ではLCC(格安航空会社)のように低コスト構造を構築するか、あるいは他社とのアライアンスよって需要の変動をカバーし合う仕組みが不可欠になります。MBA受験生にとっては、コアなし業界を理解することは業界によって競争戦略が異なる理由を学ぶ上で非常に有益であると言えます。単に需要と供給のバランスではなく、構造的な制約条件を理解することが、戦略的思考を身に付ける第一歩となります。

1-2.埋没コストが大きい。

 二つ目は「埋没コストが大きい。」という条件になります。

 埋没コストとは既に支払った費用の事です。例えば研究開発費に一定の金額を投じたとします。仮にこの研究開発を途中で中止したとしても、それまでに使った費用は回収できません。これを埋没コストと言います。この埋没コストが大きければその分だけ撤退した時の損失が膨らむので、埋没コストが大きい場合は企業は損失を減らす為に少しでも安く売ろうとします。結果として双方が最高の条件で取引するのが難しくなります。

 埋没コストは経済学や経営学において重要な概念であり、特に意思決定の場面では誤解を招く原因になります。本来は合理的な判断を行う際に埋没コストを考慮すべきではありません。何故なら埋没コストはすでに回収不能であり、将来の意思決定に影響を与えるべき要素ではないからです。しかし実際の企業経営では「ここまで投資してきた。」という感情が働き、撤退すべきタイミングを逃してしまうことが多々あります。これを「コンコルド効果」とも呼び、過去の巨額な投資が冷静な判断を邪魔してしまう典型例になります。例えば航空機の開発、大規模なインフラ投資、新薬の研究などでは、この埋没コストの影響が見られます。最終的に市場で成功しないと分かっていても、途中で止められないという心理が働くのです。したがって企業は埋没コストを明確に区別し、将来の収益性や機会費用を重視した上で意思決定を行う必要があります。こうした冷静な判断ができるかどうかが企業が持続的に成長できるかどうかに関係しています。

1-3.製品差別化ができない。

 三つ目は「製品差別化ができない。」という条件になります。

 企業が製品差別化を実現できない場合は破滅的競争になります。例えばホテル業界で特に特徴のないサービスを提供している場合、立地等が同じであれば競合他社より高い価格でサービスを売ることはできません。ただホテル業界というのはサービスを利用する顧客がいないと固定費が発生するだけなので、少しでも固定費を補填したいという考えから、顧客が集まらないホテルの経営者は採算割れでも集客するようになります。結果として破滅的競争となり最高の条件が成立しなくなります。

 このような破滅的競争は価格競争の罠と呼ばれ、差別化が難しい業界で深刻な問題となります。ホテル業界に限らず、航空業界・運送業・小売業など固定費の割合が高いビジネスモデルでは、稼働率を上げるために価格を下げざるを得ない状況に陥りやすい業界です。一時的には顧客を確保できたとしても、長期的には利益が圧迫されて市場からの退出を余儀なくされます。このような状況を避けるためには、製品・サービスに独自性を持たせる差別化戦略が不可欠です。例えばホテル業界であれば、特定の顧客層に特化した高付加価値を提供するサービスなどが考えられます。ホテルを単なる宿泊サービスとして提供するのではなく「ここでしか得られない価値」を追加で提供できれば、価格競争から脱却し安定した収益を確保することが可能になります。つまり破滅的競争を回避するには「顧客に選ばれるか理由を作る」ことが重要になります。

1-4.市場需要が予測できない。

 四つ目は「市場需要が予測できない。」という条件になります。

 企業が市場の需要を予測できない場合は需要と供給が一致する価格・量での取引は行われなくなります。何故なら売り手と買い手のそれぞれが適正価格・適量を予測できないからです。結果として取引にロスが生じることになります。例えば需要量が100個あったとしても、企業がそれを予測できずに150個用意した場合は50個売れ残ります。また仮に50個しか用意しなかった場合は50個の機会を逃す事になります。このように市場需要が予測できないと最高の条件は成立しなくなります。

 需要予測が困難な状況では市場の不完全情報が大きな問題となります。売り手は在庫リスクを抱え、買い手は安定的に商品を購入できない不安を持つので双方にとって効率的な取引が妨げられます。このような環境では需給のミスマッチが発生し、価格の急変動や過剰在庫による値崩れが発生しやすくなります。その結果、企業は短期的な利益確保のために過剰な生産や販売促進を行い、長期的には収益性を損なう結果となります。こうした問題を解決するには需要を予測する精度を高める取り組みが求められます。例えばビッグデータを活用した消費者行動の分析などが挙げられます。市場の需要を正確かそれに近い程度で捉えることができれば、余剰在庫や機会損失を減らす事ができるようになり、売り手と買い手の双方にとって最適な条件を実現しやすくなります。

コアなし業界とは?:まとめ

 コアなし業界では企業戦略を策定することが極めて重要になります。何故なら正しい戦略策定ができない場合は利益を出す事ができないからです。しかし現実にはコアなし業界で戦う多くの企業が利益を出しています。これについては別記事(「コアなし業界の戦略的機会とは?MBA受験生が知るべき市場攻略法」をご覧下さい。)で解説していますのでこちらをご覧下さい。この記事ようにコアなし業界で利益を出す事も可能ですので、MBA受験に向けてこの事実をしっかり理解しておくようにしましょう。