マトリクス組織とは?メリット・デメリットをMBA視点で徹底解説

2025年07月03日

マトリクス組織

1-1.マトリクス組織とは?

 「マトリクス組織」とは機能別と事業部別の二つの指揮系統を持つ組織形態です。

 マトリクス組織では従業員は機能・事業部の二つが重なった組織に所属する事になります。そのため機能別組織と事業部別組織のそれぞれのメリットを享受することができます。しかしマトリクス組織にはメリットとデメリットが存在します。それぞれ以下の通りです。

 マトリクス組織の最大のメリットは、専門性と事業対応力を同時に高められる点です。従業員は自分の専門分野に基づく機能別の知識やスキルを活かしつつ、特定の製品・サービスや顧客セグメントを担当する事業部にも所属するため、専門性を維持しながら事業の成果にも直接貢献できます。これにより、組織全体として技術力やノウハウの深化と市場対応力の両立が可能となります。また、機能部門と事業部門の二重の視点を持つことで、製品開発や販売戦略の意思決定において、よりバランスの取れた判断ができる点もメリットです。さらに、従業員にとっても幅広い経験を積む機会となり、経営人材やリーダー育成の観点でも有効な組織形態と言えます。

 一方で、マトリスク組織にはデメリットも存在します。まず、二つの指揮系統を持つことによる意思決定の複雑化が挙げられます。従業員は機能長と事業部長の双方の指示を受けるため、優先順位や指示の整合性が不明確になる場合があります。この結果、業務の混乱や判断の遅れが生じることがあります。さらに、責任の所在が曖昧になりやすく、問題が発生した際の責任追及や評価が難しくなるリスクもあります。また、指揮系統の複雑さに伴い、調整やコミュニケーションに時間がかかり、管理コストが増大する可能性もあります。

 総じて、マトリクス組織は専門性と事業対応力を両立させる強力な組織形態であると言えます。一方、意思決定の複雑化や責任の曖昧化といった課題に注意が必要です。導入にあたっては、明確な権限分掌や情報共有・調整の仕組みを整備することが成功の鍵となります。

1-2.マトリクス組織のメリット

 マトリクス組織の最大のメリットは機能部門・事業部門の各トップが全社的な判断を下すことが可能になるという点になります。

 マトリクス組織では機能部門・事業部門の各トップが全社的な判断を下す事が可能です。例えばマーケティング部長は全ての事業部のマーケティングについて意思決定を行うことができます。またA事業部長はマーケティング・製造・研究開発等のA事業部に関する全ての機能について意思決定を行うことができます。このようにマトリクス組織では、それぞれのトップが全社的な視点を持つことができるようになります。これが例えば機能別組織だとそれぞれの部門が独自にA事業部に対する扱いについて考えることになります。またこれが事業部別組織だとそれぞれの部門が独自に各機能について考える事になります。しかしマトリクス組織ではその欠点をカバーすることができます。

 更にマトリクス組織の特徴は、機能別組織と事業部別組織の長所を統合できる点にあります。つまり、機能部門の専門性を損なうことなく、事業部ごとの迅速な意思決定や市場対応力を維持できるのです。例えば、製品開発プロジェクトを考えた場合、開発部門の専門家は技術的な判断や品質管理を担当しながら、同時にA事業部の営業やマーケティング担当者と連携することで、市場ニーズに即した製品をタイムリーに投入することが可能になります。この二重の視点により、事業部単独では気づきにくい市場動向や顧客ニーズを早期に取り入れることができ、全社的なシナジーを生み出すことができます。

 またマトリクス組織ではリソースの効率的な活用も期待できます。各機能部門の人材や技術を複数の事業部で横断的に活用できるため、専門知識の重複や無駄を抑えることが可能です。例えば同じマーケティングチームが複数の事業部にサービスや知見を提供することで、ノウハウが蓄積されやすく、全社的なベストプラクティスとして展開することも容易になります。これにより、企業全体としての競争力向上や戦略の統一性の確保が図れます。

 一方で、マトリクス組織には管理上の課題も存在します。従業員は二つの上司に報告するため、指示や優先順位が重複・矛盾することがあり、業務遂行が複雑化するリスクがあります。また、責任の所在が曖昧になりやすく、意思決定の遅延や部門間の調整コストが増大する可能性もあります。そのため、成功させるには権限分掌や意思決定ルール、コミュニケーションの仕組みを明確に定めることが不可欠です。定期的な会議や情報共有の場を設け、全社的な目標と各事業部・機能部門の活動が常に連動するように調整する必要があります。

 更にマトリクス組織は経営人材の育成にも寄与します。従業員は複数の視点から業務に関与することで、専門性に加え、事業全体を俯瞰する能力や部門間調整力を身につけることができます。これにより、将来的な経営リーダーやプロジェクトマネージャーの育成にもつながり、企業の持続的な成長基盤を支える組織形態となります。総じて、マトリクス組織は複雑さを伴うものの、専門性と事業対応力、全社的視点の両立を可能にする強力な組織形態と言えるでしょう。

1-3.マトリクス組織のデメリット

 マトリクス組織の最大のデメリットはマネジメントが難しいという点になります。

 マトリクス組織はマネジメントが難しい組織形態になります。マトリクス組織では授業員は二つの部門に所属することになります。これによりダブル・バインドが起こる可能性が生じます。具体的にはA事業部長がこれから研究開発に力を入れたいと考えたとしても、研究開発部門長がA事業部ではなくC事業部の研究開発に集中したいと考えた場合、従業員は二つの指示に混乱することになります。このように矛盾する二つの指示を受け取ることをダブル・バインドと言いますが、このダブル・バインドにより組織が混乱する可能性が生じます。そのためマトリクス組織はマネジメントが難しいというデメリットを有することになります。

 加えて、マトリクス組織では意思決定の複雑化もマネジメントを難しくする要因の一つです。従業員が二つの上司に指示を仰ぐ構造上、優先順位の判断が曖昧になりやすく、どちらの指示を優先すべきか迷う場面が頻発します。これにより業務の進行が遅れるだけでなく、従業員のストレスや不満も増大し、モチベーション低下や離職リスクにつながることがあります。また、責任の所在が不明確になりやすいため、問題が発生した際に誰が最終的な意思決定を行うのかが曖昧になり、対応の遅れや対立が生じる可能性もあります。

 更に、マトリクス組織では部門間の利害対立が起こりやすい点も注意が必要です。例えば、機能部門長は自部門の専門性や資源の効率的活用を重視する一方、事業部長は事業成果や市場対応を優先します。このような対立が繰り返されると、従業員が板挟みになり、意思決定や業務遂行に支障をきたすことがあります。結果として、全社的な戦略との整合性が損なわれるリスクも高まります。

 このようなデメリットを克服する為には、明確な権限分掌と意思決定のルール設定が不可欠です。具体的には、どの場面で事業部長が最終判断を行うのか、どの業務について機能部門長が裁量を持つのかを明文化し、全社員に周知することが重要です。また、定期的な調整会議や情報共有の場を設けることで、部門間の認識のズレを最小化し、ダブル・バインドの発生を抑制することも有効です。

 更に、リーダーやマネージャーには高度な調整力とコミュニケーション能力が求められます。単に指示を出すだけでなく、部門間の利害や優先順位を調整し、従業員に明確で一貫した方向性を示すことが不可欠です。このように、マトリクス組織は高度な運用スキルを必要とする一方で、うまく機能させれば専門性と事業対応力を両立できる強力な組織形態であると言えます。

マトリクス組織:まとめ

 上記の通りマトリクス組織は機能別組織と事業部別組織それぞれのメリットを持つ組織になります。しかしその長所はマネジメントがより難しくなるという短所により支えらえています。そのため機能別組織・事業部別組織・マトリクス組織のいずれの組織形態が望ましいか、目的や状況から自分で判断できるようになりましょう。