2025年05月08日
目次
VRIOフレームワーク
企業が内部資源・能力の強み・弱みを理解する為に作られたのが「VRIOフレームワーク」です。詳細はそれぞれ以下の通りになります。
1ー1.経済価値(Value)
まず一点目は「Value(経済価値)」になります。
企業が有する資源や能力が価値を生む場合はこれに該当します。内部資源の例としては、セブン・イレブン社の店舗ネットワークが挙げられます。駅前や人通りが多い場所に有する店舗ネットワークは顧客から見るとアクセスの良さという価値があり、それが売上利益に繋がっています。また内部能力の例としてはトヨタ社のカイゼン文化が挙げられるでしょう。トヨタ社はこれにより生産効率や品質の向上を実現しています。これは能力に経済価値があると言えます。
またValue(経済価値)を考える時は「顧客にとっての価値」と「企業にとっての価値」を区別する事も重要です。まず顧客視点では利便性・低価格・高品質といった価値が重要になります。一方で企業視点では、それが収益性や市場シェアの拡大といった形で成果に結びつく必要があります。例えば、アップル社のブランド力は顧客にとっては「デザイン性や安心感」という価値ですが、企業にとってはブランド力が高価格戦略を可能する源泉になっていると言えます。このように経済価値は顧客と企業の両面から判断する必要があります。
更に経済価値は持続的に競争優位の源泉になり得るかという点が重要になります。例えば低賃金労働力に依存するだけでは模倣困難性が低いため持続的価値であるとは言えませんが、企業が有する独自技術や組織文化は容易に模倣する事ができず、長期的に価値を生み続ける源泉になる可能性があります。よってMBA試験対策の観点からは、その資源や能力がどのように企業の収益構造や市場でのポジショニングにつながっているのかを明確に説明できることが重要になります。
1ー2.希少性(Rarity)
次に二点目は「希少性(Rarity)」になります。
企業が有する資源や能力に希少性があればこれに該当します。内部資源の例としては、ASML社があります。この会社は最先端の半導体に不可欠な極紫外線(EUV)露光装置を製造しており、この製造を行っているのは世界中でASML社だけになります。そのためASML社の技術には希少性があると言えます。次に内部能力の例としては任天堂社のゲームデザイン力が挙げられます。任天堂社のようなゲームが創れる力は希少性の高い能力であり、これは同社の売上利益に直結しています。
基本的に希少性(Rarity)を考える時は少ないという意味だけではなく代替の困難性も重要になります。例えば企業が希少な天然資源を有していたとしても、代替素材が容易に調達できるのであれば、希少性による競争優位を築く事はできません。競合企業はこぞって代替資源を仕入れて同じ効果を作り出すでしょう。逆に代替が効かない独自の技術やノウハウは、数が少なくても非常に強い希少性を持ちます。何故なら競合他社が模倣する事ができないからです。
MBA受験(小論文)では、その資源や能力の独自性が重要になります。例えばテスラ社のバッテリー技術や充電インフラは、自動車業界全体で模倣が難しく現状では希少性を有しています。これにより同社は電気自動車市場で強い競争優位を確立しています。この技術やインフラを容易に模倣できないからこそテスラ社は強い競争優位性を有しているのです。このように資源や能力は希少性が重要になりますが、その希少性の独自性も同様に重要になります。
また希少性は一時的に失われる事があります。技術革新が進めば当初は希少であった能力や資源が一般化してしまう事があります。というよりそれが普通です。そのため企業は持続的に希少であり続ける仕組みを持つことが求められます。任天堂のゲームデザイン力が何十年も維持されているのは、独自の開発文化やクリエイターの育成体制があるからであり、単なる特定個人の一過性の才能に依存している訳ではない点が重要です。
1ー3.模倣困難性(lnimitability)
三点目は「模倣困難性(Inimitability)」になります。
企業が有する資源や能力に対する模倣困難性が高ければこれに該当します。内部資源の例としてはアマゾン社の顧客データが挙げられるでしょう。大企業であるアマゾン社のビッグデータは極めて模倣困難性が高く、同社がこれを武器に新事業を行った場合、競合他社が同じように模倣する事はほぼ不可能です。よってアマゾン社のビッグデータは模倣困難性が高い資源だと言えます。次に内部能力の例としては、リッツカールトン社の接客力が挙げられます。同社の接客力は極めて高い事で知られており、理念の浸透や従業員教育も含めて、競合他社が容易に模倣するのは難しいと言えます。そのため同社の接客力も模倣困難性が高いと言えます。
模倣困難性が生まれるには幾つかの理由があります。一つ目は歴史的条件によるものです。企業が長い年月をかけて蓄積してきたブランド力やノウハウは、後発企業が短期間で追いつくことはできません。例えばコカ・コーラのブランド価値は100年以上の歴史とマーケティング戦略の蓄積によって形成されており、仮に同じ味の飲料を作ったとしても再現する事はできません。もう一つは社会的複雑性です。これは人間関係や組織文化などが絡み合って形成される能力を指します。リッツカールトンの接客力は単なるマニュアルではなく、従業員の自発的なホスピタリティ精神に支えられています。このような文化的要素を他社が模倣するのは極めて困難であると言えます。
また因果関係の不明性も模倣困難性を高める源泉になります。競合他社が特定の企業が高い業績を上げている理由を正確に把握できない場合は同じ結果を再現するのは難しいと言えます。何故なら何を模倣して良いか分からないからです。例えばグーグルのイノベーション文化は多様な人材・独自の評価制度・自由度の高い働き方といった複数の要素が絡み合っており、外部からは一見して理解しにくい構造になっています。MBA受験では、模倣困難性が高いと説明するだけでなく、その困難さが「歴史的条件」「社会的複雑性」「因果関係の不明性」といった要因のどれに基づくのかを分析できると高い評価につながると言えます。
1-4.組織(Organization)
最後の四点目は「組織(Organization)」になります。
企業が有する組織資源や組織能力が高ければこれに該当します。内部資源の例としてはファーストリテイリング社(ユニクロ)のSPAが挙げられます。同社は製造から販売までを一社で行っており、これは競合他社にはない組織資源である言えます。次に組織能力としては、ホンダ社が挙げられます。階層を超えたアイディアが通る風土や柔軟な組織運営力は同社の固有の組織能力だと言えます。この組織力は新製品の開発能力に直結しており、売上利益にも直結しています。よって同社の組織能力は高いと言えます。
更に組織資源や組織能力は他の三つのVRIを活かす為にも重要になります。何故ならどんなに価値のある技術や希少なノウハウを有していても、組織がそれを活用できなければ競争優位を築く事はできません。よってこれらの資源を活かして競争優位にするのは組織であると言えます。そのためVRIOフレームワークの最後の要素である組織が機能する事で他の要素を活かす事ができ、結果として持続的な競争優位を築く事が可能になると言えます。組織力の高さを示す事例として、グーグル社が挙げられます。グーグル社は社員が業務時間の一部を自由に研究開発に使える制度を有しているのですが、これが組織的なイノベーション能力を高めています。GmailやGoogleマップといった新事業もこれによって生まれました。このように組織設計そのものが企業の競争優位を支えるケースも多くあります。
また組織能力は外部環境の変化に適用する力としても重要になります。ファーストリテイリング社はデジタル化を推進し、グローバルサプライチェーンとなっているのも組織全体の柔軟性と適応力があるからです。MBA試験では資源や能力をいかに活かす仕組みを整えているかという視点で、組織力を説明できると高評価につながります。
VRIOフレームワーク:まとめ
VRIOフレームワークは分析に用いるフレームワークですが、最も重要なのはVRIOフレームワークを使って企業の内部資源・能力を分析できるようになる事です。MBA受験ではVRIOフレームワークを知っておく事が非常に重要になります。そのためしっかり覚えておくようにして下さい。そして戦略論を考える時はVRIOフレームワークを念頭に置き、企業分析で利用できるようになりましょう。